北参道のフレンチの名店「シンシア」のシェフがひらめきを求めて通う、家族も喜ぶ行きつけとは?
「シンシア」の代名詞ともいえるのが、目の前に運ばれあっと驚く「ルーアンクルート(魚のパイ包み焼き)」だ。フランス料理をもっと気軽に楽しんでほしいと、鯛焼きの形のパイの中にスズキ(季節によっては真鯛)を忍ばせてあり、パイのサクサク食感が損なわれないよう、先にソースと付け合わせを盛りつけ、後から焼き立ての“鯛焼き”をのせる。発想や形はユニークでも料理そのものは本質を外さないのが石井流だ。
サステナブルな未来を見据えた仕事で次世代へ
ミシュラン一つ星を2019年から連続獲得する「シンシア」は、サステナブルなレストランの最高峰「ミシュラングリーンスター」にも認定されている。
若い時分には本場フランスの星付きレストランで修業を積んだ石井氏。「当初はただおいしいものを作れればいいと思っていましたが、日本の外に出たことで、四方を海に囲まれた日本がいかに水産資源に恵まれていたのかを実感しました。そこから20年、当たり前に取れていた魚が取れなくなる、価格が著しく高騰するなど、日本の水産資源は非常に深刻な状況にあります」
そこで2017年から石井氏が取り組んでいるのが、サステナブルシーフードの活動だ。将来的に魚を絶滅させることなく食べ続けていけるよう、例えば水産資源や環境に配慮した漁業で獲られた大西洋クロマグロ、環境と社会への影響を最小限に育てられた真鯛、ブダイなどの未利用魚を料理に取り入れ、メニュー表にも記載。それを見て関心を抱くお客様には、さらに詳しく話すようにしているという。
「僕がやりたいのは、未来を見据えた仕事です」と石井氏は語る。
それは自分の名前を残すということではなく、10年後、20年後、100年後、次に続く世代を考えてのことだ。「マグロやうなぎなど日本の豊かな水産資源を絶やすことなく次の世代につなぎたい。と同時に、自分が携わる料理人という仕事をもっと価値のあるものに、サステナブルなものにしたいんです」
とかく日本の料理人は忙しく、修業時代は厳しく過酷というイメージがあるが「それでは続きませんよね。働く環境や時間、収入面などが改善され、料理人が憧れの職業となり、料理人を志す若い人が増えれば、世界からも高く評価されている職人技を次世代につなぐことができますし、日本の食文化がもっともっと豊かになるはずです」