独断と偏見で落語家が勝手に「今年の漢字」を予想!地震、五輪、大谷、選挙、闇バイト…共通する1文字とは
■ 振りまくったあの人 今年の夏には、パリでオリンピックが賑々しく開催されました。日本は金メダル20個、銀メダル12個、銅メダル13個を獲得し、夏季五輪においては過去最多のメダル獲得となりました。テレビでは、現地で日の丸の旗を「振る」日本人のたくさんの姿が映し出されていました。 そして、誰が何と言っても一番、「振る」ことで世界中にどよめきと感動を与えたのが、大谷翔平選手でしょう。 メジャー史上初となる「50本塁打・50盗塁」、さらに54本塁打・130打点で日本人初となる「本塁打」と「打撃」の二冠を達成したばかりではなく、所属チームのドジャースがワールドシリーズで優勝し、2年ぶり3度目の「MVP」にも輝きました。「三振」すらも絵になる姿は晴れ晴れしいものでした。 そして、注目を集めた「事件」も「振」で語ることができそうです。 1966年に静岡県で一家4人が惨殺された「袴田事件」では、強盗殺人罪で死刑が確定した袴田巌さんの再審=やり直し裁判で無罪が確定しました。逮捕から58年を経て事件は「振り出し」に戻った格好とも言えますが、検察の捏造と袴田さんの境遇に思いをはせると、改めて怒りすら込み上げてきます。 国内の暗部に目をやると、住人らに「暴力を振るう」闇バイトが多発しました。「振り込め詐欺」やSNS投資詐欺なども後を絶ちません。SNSに広がる安易な誘いに引っかかり「受け子」や「かけ子」などになり、指示役から「無茶振り」されて取り返しのつかない犯罪に加担してしまう。犯罪組織の巧妙さや、犯罪の残酷さに、多くの人が震えあがりました。 以上、独断と偏見とこじつけで、災害や事件、大記録、選挙などに振り回された2024年を振り返ってきましたが、「振」にちなんだ落語には「千早振る(ちはやぶる)」という一席があります。
■ SNSで可視化される「知ったか振り」 ■落語『千早振る』のあらすじ 先生と呼ばれている隠居(実は知ったか振り)のところに、八五郎が尋ねてくる。娘に小倉百人一首の在原業平『ちはやふる 神代もきかず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは』という歌の意味を教えてほしいとのことだった。 隠居はどうせ本当に意味は知らないだろうということで、でたらめな解釈を披露する。 竜田川は相撲取りのしこ名だ。大関にまで昇進した竜田川は、ひいきの客と吉原へ遊びに行き、花魁(おいらん)の「千早」に惚れてしまう。だが、千早は相撲取りが嫌いで、「振ら」れてしまう=『千早振る』。 仕方なく竜田川は、妹分の花魁「神代」を口説く。神代も「姐さんが嫌なものは、わちきも嫌でありんす」と、言うことを聞かない=『神代も聞かず竜田川』。 いくら大関になったとしてもこんな扱いかとがっかりした竜田川は、力士を廃業し、実家に戻って家業の豆腐屋を継ぐことになった。それからしばらくして、竜田川の店に一人の女乞食がやってきて、「おからを分けてくれ」と言う。 もとより人情深い竜田川はやさしく対応しようとするのだが、なんとその乞食は落ちぶれた千早太夫の成れの果てだった。 竜田川は激怒し、おからを放り出し、千早を思い切り突き飛ばす。千早は、井戸のそばに倒れこみ、こうなったのも因果と世をはかなみ、井戸に飛び込んだ=『から紅(くれない)に水くくる』。 釈然としない八五郎に、隠居は、「ほら、一番初めが竜田川を千早が振ったから千早振るだ」と、いままでの説明をつなげる。明らかにインチキとわかる話に渋々八五郎は付き合うが、「『千早振る 神代も聞かず竜田川 からくれないに水くぐる』まではわかりましたが、最後の『とは』は何ですか?」と聞き返した。隠居は苦し紛れに答えた。 「とは、とは、千早の本名だった」 前座噺の1つでいまでも頻繁に高座にかけられていますが、師匠の談志は同じ「知ったか振り」の噺として、「やかん」を十八番にしていました。 実は落語には、「千早振る」や「やかん」のほか、「浮世根問」「転失気」「茶の湯」など、「知ったか振り」を笑う噺が結構多く残っています。 仮説ですが、落語が成立し定着し始めた幕末から明治という時代を顧みると、「知ったか振り」の自称先生などのインチキな人が多く存在していたのではと推察します。 ひるがえって現代。SNSでは各種「知ったか振り人間」があふれています。落語が生まれた時代よりはるかに情報化された社会となって、「知ったか振り人間」が可視化されるようになったとも言えないでしょうか。 あの、公職選挙法違反だと問題になっているPR会社の女性社長しかり、知ったか振りとは言えないまでも、選挙活動の専門家に少しでもアドバイスを仰いでいたら、今回のような失態をさらすこともなかったのではないかと思います。