「AI研究」にノーベル物理学賞と化学賞 その理論と技術を詳細解説 長谷佳明
今年のノーベル賞は、物理学賞、化学賞でAIに関連する研究が受賞する「AIの年」になった。AI技術は、画像認識や音声認識などがすでに日常生活に溶け込み始め、自然科学など多くの研究活動にとっても欠かせない技術になっている。しかし、AIに関する研究がこれまでノーベル賞を受賞したことはなく、AIの社会的インパクトの大きさと時代の変化を改めて感じる結果となった。 ◇物理学賞をAIへの衝撃 ノーベル物理学賞は、米プリンストン大学のジョン・ホップフィールド教授とカナダ・トロント大学のジェフリー・ヒントン教授が受賞した。この受賞に関しノーベル財団のホームページには「This year's laureates used tools from physics to construct methods that helped lay the foundation for today's powerful machine learning.(今年の受賞者は、物理学のツールを使用して、今日の強力な機械学習の基礎を築くのに役立つ方法を構築した)」と、物理学とAIの領域の一つである「機械学習」に言及し、その功績をたたえている。 ホップフィールド教授の受賞理由となった研究は、1982年に公開された論文「Neural networks and physical systems with emergent collective computational abilities.(集合的な計算能力を備えたニューラルネットワークと物理システム)」にまでさかのぼる。この論文で、画像などのパターンの記憶と再現が可能な「ホップフィールド・ネットワーク」と呼ばれる人工ニューラルネットワークを考案した。 ホップフィールド・ネットワークは、データの一部しかなかったり、またはノイズが入ったりしたような状態から、元の完全な状態を復元する。関連する情報の断片から思い出す「連想記憶」のような仕組みが、単純なネットワークで実現できる点が画期的であった。