「AI研究」にノーベル物理学賞と化学賞 その理論と技術を詳細解説 長谷佳明
ホップフィールド教授は、もともと物理学の研究者であった。そのため、人工ニューラルネットワークが記憶を定着させた状態とは、物質の安定状態に相当するエネルギーの低い状態ではないかと考え、物理学で既に確立されていた理論を応用した。このように、ホップフィールド教授の貢献は、物理学の理論を他分野に橋渡しし、情報学や人工知能に新たな道を切り開いた点にある。 ヒントン教授の受賞理由となったのは、ボルツマン分布を用いるなどし、ホップフィールド・ネットワークを拡張した「ボルツマンマシン」である。明確な時期は定かではないが、ヒントン教授によれば、ホップフィールド・ネットワークが考案されてまもない1983年には、すでに理論が作られていたようだ。 ボルツマン分布とは、19世紀のオーストリアの物理学者であったルートヴィッヒ・ボルツマンが考案した気体中の分子の動きに関する確率分布(発生確率のパターン)である。ヒントン教授は、ホップフィールド・ネットワークにボルツマン分布を活用し、確率的な要素を取り入れ、さらに現代のディープニューラルネットワークにも通じる「隠れ層」に似た多層構造を導入し、モデルの表現力を大幅に向上させた。その後も改良は30年以上続き、2012年の画像認識コンテスト「ILSVRC(the ImageNet Large Scale Visual Recognition Challenge)」で、圧倒的な性能をたたき出すことになるディープラーニングモデル「AlexNet」へと進化した。 ホップフィールド教授とヒントン教授は、今日の機械学習に多大な貢献を果たした人物であり、物理学の理論を独創的なアイデアで応用した先駆者でもあったといえるだろう。 ◇化学分野でのAI大躍進 ノーベル物理学賞のAI研究者の受賞への驚きが冷めやらぬ中、化学賞には米ワシントン大学のデビッド・ベイカー教授、そして、英国のAI開発企業のディープマインドのデミス・ハサビスCEOとジョン・ジャンパー氏が選ばれた。