「無料塾」創設者が語る、格差解消に必要なこと 食料支援と奨学金も実施「教福中道」こだわる訳
貧困家庭に育ったからこそ「無料塾」にこだわる
今でこそ企業による寄付などもあり安定した運営ができているものの、立ち上げ当初のつばめ塾の財政は厳しい状況にあった。3人の子を持つ父である小宮氏は、正社員の仕事を手放してつばめ塾に専念してからは、自分自身が経済的に厳しい状況に陥ったという。 それでも無料塾にこだわるのは、小宮氏自身が経済的に苦しい家庭で育ったからだ。都立高校3年の時には、当時の授業料の月額1万1000円が支払えずに中退の危機に直面。奨学金を申請して卒業し、大学の入学金や授業料は母方の祖父母に頼み込んで何とか工面できたが、しばらくは教科書を購入できなかったという。 大学卒業時は就職氷河期で、教員採用試験に合格できず、私立高校で社会科の非常勤講師になった。しかし、収入が不安定なため、映像制作会社の正社員に転職。紛争地帯や東日本大震災などを取材する中、「人の役に立つことをしよう」と決意し、2012年に無料塾を立ち上げた。現在も東京薬科大学と私立高校の非常勤講師、病院でのアルバイト、講演料などで生計を立てながら無料塾の運営を続けている。 創設12年目となる今、小宮氏は、行政・学校・民間にはそれぞれにできることがあるという思いを強くしている。 厚生労働省の2021年調査によれば、子どもの貧困率は前回調査の14%から11.5%と改善傾向にあるものの、一方で大学進学率は57.7%と過去最高を記録し、家庭の経済状況による教育格差は拡大していることがうかがえる。 格差を埋めるために必要なことについて、小宮氏はこう語る。 「行政がやると効果的なのは一律一斉の支援なので、すべての子どもが平等に支援されるような政策を打ってほしいです。例えば、東京都は2024年4月から私立高校を含む高校授業料を実質無償化としましたが、本来なら高収入層に授業料の支援を広げるよりも、給食費無償化などのほうが優先度は高いはずです。また、東京都は都立学校の設置者なのですから、都立高校の改修や学びの充実にお金を使う必要があるのではないでしょうか」 学校教育でも少人数体制を進めるなど、より個別指導に近い形で、教育の質を担保すべきだと小宮氏は考えている。 「とはいえ、教員の業務は雑用も多く、保護者対応や事務など負担が大きすぎます。ソーシャルワーカーや弁護士、事務スタッフなど、教員以外の支援者も増やして負担を軽減させ、本来の仕事である子どもと向き合う時間を取れる体制にする必要があると思います。そのためにも、日本はもっと教育にお金をかけるべきではないでしょうか」