袴田事件の極刑にこだわった検察 「メンツ保持」否定する幹部たち
検察が選択した求刑は、56年前の確定審と同じ「死刑」だった。1966年6月に静岡県清水市(現静岡市)で一家4人を殺害したとして、強盗殺人などの罪で死刑が確定した袴田巌さん(88)の再審公判。無罪判決の公算が大きい中、検察側はなぜ有罪立証にこだわり、極刑を求めたのか。 【図でわかる】そもそも袴田事件とは 事件では2014年に静岡地裁が再審開始決定を出し、その後に東京高裁が決定を取り消したものの、最高裁が審理を差し戻し、東京高裁も23年3月に再審開始を認めるという異例の経緯をたどっている。 弁護側は「メンツのためだ」と批判するが、ある検察幹部は「虚心坦懐(たんかい)に証拠を見た結果だ。メンツのためであるわけがない」と語った。 検察側は2023年10月から計15回審理された再審公判で、袴田さんが事件を起こしたと主張する理由を次々に列挙した。 袴田さんの実家から「5点の衣類」の一つであるズボンと生地が一致する布端が見つかった▽袴田さんの左手中指にあった傷は事件時に負ったと考えられる▽5点の衣類の一つであるシャツの右袖に付いた血痕は、袴田さんと同じ血液型だった――といった具合だ。 別の検察幹部は「これだけの証拠があるということをしっかり提示した」と強調。最大の争点である5点の衣類に付いた血痕の赤みに関する弁護側の主張への反論だけに終始せず、防戦一方にならないように腐心した様子が見て取れる。 4人が殺害された事件の重みからすると、有罪立証を維持するのであれば死刑求刑は既定路線だった。 ただし、再審開始を認めた23年の東京高裁決定は、検察側が今回挙げた有罪立証の理由の多くを検討した上で「袴田さんを犯人と推認させるものではない」と退けている。 このため再審公判での有罪は難しいとみる検察関係者は少なくないが、閉廷後に取材に応じた静岡地検の小長光健史次席検事は「未成年2人を含む一家4人を殺害し、売上金を強奪し放火した極めて悪質な事案だ」と求刑理由を説明した。9月に言い渡される判決についても「十分検討して求刑しているので、その点はきちんとご理解をいただきたい」と述べた。【北村秀徳、岩本桜】