「レース中は不眠不休、山賊や猛獣の恐怖に苛まれ…」 57歳の「鬼軍曹」が挑む、“世界一過酷なレース”の中身…「出場者は全員クレイジー」
スイッチを押せば電気が点く、蛇口をひねったら水が出る。そんな当たり前のことに、現代人の多くは感謝をしない。けれどその当たり前は、災害などで簡単に機能が失われる脆弱なものであり、当たり前であることが実は奇跡である。そう考えるようになってから、自分もいかに「当たり前」を過信していたかに気づいたという。 「チームのメンバーに対し、俺はこれだけできるからお前もできて当たり前、という考えで接していました。でも本当は、一緒にチャレンジしてくれるだけでありがたいんです。なので、できないことがあれば、目標を決めて一緒にやってみよう、できたじゃん、次はここまでやろう、という風に勇気づけていかないといけない。そして信頼関係を築き、個人ではできないパフォーマンスをチームで発揮するのが、アドベンチャーレースなんです」
アドベンチャーレースで、なぜチームワークがここまで重要なのか。それは、過酷なだけでなく、不確定要素があまりにも多いからだと田中さんは説明する。しかもレースであるため、完走を目指すことが大前提で、よほどのことがなければリタイアはしない。 心身ともに極限状態に陥るため、外面など簡単にはがれ、メンバーたちはむき出しの人間性で接しないといけないのだ。 個々の能力がアスリートとしていかに高くても、成績には直結しない。むしろ1人ひとりは平凡でも、チームワークがよければ掛け算式に能力が膨れ上がる、それがアドベンチャーレースなのだという。
■「鬼軍曹」と呼ばれるゆえん ベトナム戦争が題材の『フルメタル・ジャケット』(1987年)という映画がある。アメリカ軍のハートマン軍曹が、新兵たちを徹底的にしごいていく場面が印象的な作品だ。体罰や暴言は当たり前で、人格破壊するまで追いつめ、新兵は徐々に狂っていく……という内容で、ハートマン軍曹はまさに「鬼軍曹」の象徴である。 田中さんも同じ異名で呼ばれるが、彼はメンバーを人として尊重し、向き合って対話をし、信頼関係を築こうとしていく。人格者で理想的なリーダーにしか思えないが、鬼軍曹と呼ばれるゆえんは何だろうか。