音楽シーンからみるアメリカ大統領選。ハリス支持は多いが、トランプにはダメージなし? 大和田俊之さんに聞く
「アメリカは極端に社会の問題が可視化される国」
―大和田さんがおっしゃるように、エンタメ業界がいくら声を上げようとも、保守とリベラルの分断はどんどん深まっていて、これを正常化していくのは困難なのではと思ってしまいます。 大和田:ただ、共和党に関しても、伝統的な保守派と、いわゆる「トランピズム(トランプの政治姿勢)」で分かれるようにもなっています。共和党の重鎮であるディック・チェイニー元副大統領とその娘のリズ・チェイニーがハリス支持を表明したりと、保守派のなかでトランプ離れが進み、もしかしたら再編する可能性もありえるのかと思ったりします。 ―大和田さんはいまの混乱するアメリカの動向について、どのように感じていますか? 大和田:先ほども話したように、個人的にもトランプを支持する世界がどこまで見えているのだろうかという気持ちがどんどん強くなっています。自分自身も無意識に喋っていることがリベラル寄りになっている気がしますし、それがまったく届かない世界が半分くらいあるだろうということは、不安でもあります。 アメリカはすごく極端に社会の問題が可視化される国です。ですから、11月5日の結果によっては多くの人たちがパニックになる可能性がある。 前回の大統領選があった2020年に、向こうの大学に務める知り合いから講義を頼まれたんですが、時期を尋ねると、「もしトランプが勝ったら大学の授業どころではなくなる。投票日の前にやってほしい」と言われたんですよ。この国は本当に大変だと思いました。 今回もトランプが勝ったら、現地にいるマイノリティの学生たちの一部はきっと恐怖心でいっぱいになるでしょう。そういったことを考えています。
大統領選の行方で音楽が変わることはありえる
―日本に住む私たちが、アメリカの状況を見ながら学べることやできることは何かあるでしょうか。 大和田:授業をしていると、大統領が変わると音楽も変わるなんてことがあるのか、と聞かれることがあります。日本は総理大臣が変わったとしても、音楽はあまり変わりませんよね。これがいいことなのか悪いことなのか、よくわからないんですが、日本はやはり政治と文化の距離が遠く、別であると感じます。 一方で、アメリカは政治と文化の距離が近いというか、一体化してるところがある。実際の投票行動に影響力があるかないかに関わらず、今回のように誰を支持する、支持しないという話は普通に出てきます。 さらにいえば、たとえばラナ・デル・レイは「フェミニズムにはとにかく興味がない」というスタンスをとっていましたが、トランプが大統領になったあと、言動にもクリエイティビティにも彼女なりの変化が見られました。もちろん変わらないミュージシャンもたくさんいるんですが、大統領が変わることによって音楽が変わるということは、アメリカでは十分にあり得るのだと思います。 そういった視点で今回の大統領選を見てみることもいいのかな、と思っています。 *1 Five reasons why Allan Lichtman ’67 is predicting a Harris victory *2 【米大統領選2024】 トランプ候補の集会で登壇者がプエルトリコ中傷 プエルトリコ系住民の感想は - BBCニュース *3 Both Harris and Trump hope to turn gender gap to their advantage - The Washington Post *4 学歴が投票行動に大きく影響-米大統領選 | ワシントン・タイムズ・ジャパン
インタビュー・テキスト by 生田綾