音楽シーンからみるアメリカ大統領選。ハリス支持は多いが、トランプにはダメージなし? 大和田俊之さんに聞く
エンタメ業界もエスタブリッシュメント。トランプが支持される世界が本当に見えているのか
―たしかに、トランプ陣営は批判も意に介さないというか、開き直っているようにも見えます。 大和田:そうですね。終盤にかけて過激化すればするほど支持率が拮抗していく状況で、驚いています。 ただ、集会の様子を見ると、ハリウッドやアイビーリーグ(アメリカの名門8大学の総称)などのあらゆるエスタブリッシュメントに毎日のように差別的だと言われながらも、何度でも立ち上がる、「俺たちのトランプ」みたいな感じで盛り上がっているように見えます。批判がむしろ力になっている感じがしますね。 最近トランプ支持者のことをよく考えるんですが、向こうでは、高卒と大卒という学歴の分断、そして男性と女性の分断が起きているとよく指摘されます。男性はトランプに、女性はハリスに投票する傾向があり、非大卒は共和党、大卒は民主党支持率が高い(*3、4)。 私は大学で授業を持たせていただいている立場ですが、名門大学と言われる慶應大の学生たちに、両親や親戚一同がほとんど高卒で、親族のなかで初めて大学に通う同級生のことや、大学に通っていない人たちのコミュニティのことがどれくらい見えていますか、と問いかけることがあります。 日本もアメリカも学歴の格差がある。ですが、エンタメを通してみると、そこがなかなか見えづらいんですね。ハリウッドも、大学も、大手企業も、結局トップにいるのは大卒の高学歴の人たちばかりです。そのような世界にいる人たちの目に、本当にトランプ支持者の世界が見えているのだろうかということを考えます。 ―若い世代の男性のあいだでトランプ支持が広がっているという報道もありました。 大和田:かつて労働者が支持基盤であった民主党は、黒人や女性、性的マイノリティなどマイノリティの権利を代表するアイデンティティ・ポリティクスの政党に変化したと言われています。その過程で労働者階級の白人男性が置き去りになり、その人たちが右傾化したということが2016年のアメリカ大統領選以降、最も説明されていることですが、その延長線上にある話だと思います。 アメリカに限らず、平等の実現を目指そうとしたとき、それが満たされていないマイノリティの権利を向上させること、そのために声を上げるというのは自然な動きだと思います。 一方で、それに対して、保守派の人たちがまるで自分が非難されているように感じてしまうという状況が起きている。どうやってこの溝を埋められるのか、難しい問題だと思います。