音楽シーンからみるアメリカ大統領選。ハリス支持は多いが、トランプにはダメージなし? 大和田俊之さんに聞く
「トランプ側の発言はどんどん過激になっている」 深まる分断
―なるほど……。その状況は、白人至上主義的な価値観が紛糾するアメリカ社会とリンクしているように感じます。多くのミュージシャンはハリス支持を表明していますが、ハリスとトランプの支持率は同率という報道が出ています。どちらが当選するか、まったく予想がつかない状況です。 大和田:世論調査の数字を見ると半々ですが、2016年の大統領選でトランプの勝利を予想したマイケル・ムーア(映画監督)と、1980年代から9割の確率で大統領選の予想を的中させてきた歴史学者のアラン・リクトマンはハリスの勝利を予想しています(*1)。 どうなるかはわかりませんが、一方で、マイケル・ムーアはハリスの勝ちを予想しているものの、パレスチナ問題をめぐって民主党政権を批判していて、親パレスチナと親イスラエルという点で民主党内でも分断が起きているのは気になるところです(※)。 (※)バイデン政権はイスラエルへの軍事支援を続けており、ハリスはイスラエルの「自衛権」を擁護している。一方で、ガザの人道危機に懸念を示し、停戦合意を求めている。 大和田:今回の大統領選で目を見張るのは、投開票直前でも過激さを増していくトランプ側の発言です。保守もリベラルも、この時期になると中間層を狙いにいくはずなんです。まだ投票先を決めていない中道左派、中道右派の層を狙ってどちらも穏健な主張になるものですが、最近の動向を見ていると、特にトランプ側の発言はどんどん過激になっているように感じるんですね。 ハリスは中絶の権利を強く訴えていて、まだ常識的な運動を繰り広げている印象です。 大和田:トランプ陣営を見てみると、10月末の集会に登壇したコメディアンがプエルトリコを「海に浮かぶゴミの島」だと発言しました(*2)。大炎上して、プエルトリコ出身のレゲトンラッパーたちがハリス支持を表明していますが、どんどん差別的になっていると思います。 ただ、それでも支持が衰えているようには見えない。トランプのこうした主張について、穏健ではなく逆に過激化することで、「真ん中」にいる中間層というより、普段まったく投票に行かない人たちにアピールして掘り起こそうとしているのではないかという分析があります。それは興味深いと思っています。