ライオン宰相・濱口雄幸の直筆に見る凶弾の痛苦 国立国会図書館で閲覧できる死への道程
■来るはずだった未来に向けた書き込み 「日記の世界」では、濱口の盟友であり、GHQ占領下に内閣総理大臣を務めた幣原喜重郎のページもあり、そこから晩年に使っていた衆議院手帖の画像も辿れる。こちらも著作権保護期間満了のものだ。 幣原は1951年3月10日、衆議院議長在任中に心筋梗塞により78歳で急死している。予想しようのない死だった。それゆえに、手帖には4月8日まで予定が書き込まれていた。 幣原は先々の予定を書き込むために手帖を使っており、過去を振り返った雑感などはほとんど残していない。いわば未来のための筆だ。過去の出来事や思索を書き留める日記とは、向いている時間の軸が180度異なる。
ただ、日記で過去を振り返るときも、今後に生かす意識が少なからず含まれているもので、そういう意味では未来のほうも向いているといえるかもしれない。いずれにしろ、濱口の日記と随筆、幣原の手帖がともに書き手の死線を越えて、令和の現代まで誰でも読める状態で置かれていることが興味深いし、ありがたい。 ※参考文献 池井優・波多野勝・黒沢文貴編『濱口雄幸 日記・随感録』(みすず書房) 田中祐介編『無数のひとりが紡ぐ歴史』(文学通信)
古田 雄介 :フリーランスライター