人気建築家・中村拓志が選ぶ「世界一の豪邸」は北欧の超名作住宅だった!
「設計が趣味と言えるかもしれませんね」と自らを語るほどに仕事を愛し、建築を愛する中村拓志さん。さまざまな国で建築空間を体感されてきた中村さんが大きな影響を受けたという「豪邸」と、その理由を伺いました。 【写真集】アルヴァ・アアルトの名建築
中村さんが選んだ“世界一の豪邸”は「ヴィラ・マイレア」(フィンランド)
フィンランドを代表する建築家で、北欧モダニズム建築の巨匠として知られるアルヴァ・アアルト。「ヴィラ・マイレア」は、地元の実業家夫妻のために1939年にアアルトが設計したヘルシンキ郊外に立つ住宅です。中村さんはこの家を「世界一の豪邸」に選んだ理由を次のように語ります。 「ピカソやマチス、カルダーといったアートピースと建築が実によく融合しています。玄関扉を開けると風が起こり頭上のカルダーのモビールが揺れ、まるで建築が出迎えてくれているようです。その後クロークでコートを掛けて出てくると、壁に掛かる絵画が歓迎。その壁に沿って目線をリビングに運ぶと、ちょうどアイレベルに合わせて暖炉があり、『寒かったでしょう、おかえりなさい』と語りかけてくる。住む人や客人をやさしく迎え入れるようなおおらかさがあり、自分の住宅建築の設計でも大きな影響を受けています」
北欧モダンデザインの巨匠、アルヴァ・アアルト
アルヴァ・アアルト(1898-1976)はフィンランドのクオルタネ出身。建築家、都市計画家、デザイナーとして生涯で200を超える建築物を設計しました。木材をはじめ自然素材を活用した有機的なデザインは多くの人々を魅了し、建築をはじめ家具、日用品、絵画まで幅広い分野で活躍。20世紀における最も影響力をもった建築家の1人として知られ、「北欧の賢人」とも称されています。
中村さんにとって「豪邸」とは?
「私の設計した住宅のコンセプトでもあり、ヴィラ・マイレアで自分が感じたことですが、“しぐさ”のある建築です。“しぐさ”とはそこで過ごす人の気持ちや行動に働きかけるしつらえのことです。同時にしつらえによって生まれる“人のしぐさ”とも言えます。建築によってもたらされる気持ちや行為を共有することで、家族やゲストが互いの気持ちに関心をもち、思いやる──。そういった豊かな関係をつくる住宅が私にとっての豪邸です」 常に住み手に寄り添い、「豊かな関係性」が育まれる邸宅をさまざまなかたちで設計し続けている中村さん。その原点の1つは北欧に縁があったというのは、とても興味深いエピソードです。フィンランドを訪れた際には、ぜひアアルトの素晴らしい建築と空間を体験されることをおすすめします。