「英語民間試験」延期 何が一番問題だったのか? 坂東太郎のよく分かる時事用語
(2)私立大学専願者
大学生の8割を占める私大の一般入試組にとっても、「あまり関係ない」出来事です。いまや私大入学者の約半数を占める推薦入学者についても、一部にセンターを課す形態がみられますがわずかで、やはり「あまり関係ない」。あるとしたら、センター利用組です。 センター利用とは、センター試験の成績(1回きり)によって複数の大学・学部・学科の受験を可能にする制度。離島も含め、会場はほぼ居住地近くに設けられるので受験生に優しい方式です。大半はセンターの成績のみで合否判定され、ごく一部が個別試験と併用しています。 難点は定員が少ないこと。全部で定員の1割強です。また「複数の大学・学部・学科」OKというのも痛しかゆし。いうまでもなく進学する大学は1つなので、他の大学・学部に合格しても入学できません。また「センターのみ」でどこかに受かっておいて、後に実施される独自試験で一層志望度の高い大学に挑戦するという者も多くいます。そこはセンター利用を導入している大学も百も承知で、難易度がかなり高い大学でさえ定員の10倍程度の合格者を出しているといわれます。
(3)国公立優先の受験生
一般入試で国公立の2次(個別)試験が受けられるのは事実上2回だけ(これもどうかと思いますが)で、共通テストはごく一部を除いて必須なのでより切実。もっとも「国公立しか受けない」=「2回しか受験しない」という人は少なく、この層の多くが「国公立と私立の併用型」と言い換えられ、私立の論理は(2)と変わらないので、「行くところがない」というところまで追い詰められはしないでしょう。
「大学入試改革」という大方針には反対はない
一連の経緯をまとめると、英語4技能を高める方針に反対する勢力は、ほとんどありません。民間試験の活用も格差の解消がなされないまま、今日の事態を招いた主に文科省に落ち度があったといわざるを得ない半面、結果的に実施は見送られ、立ち止まることができたのは不幸中の幸いでした。 今後考えるべきは、認定試験をどうするかはもちろん、ずっと前から背景に存在する教育格差をいかに是正するか、です。
------------------------------------------ ■坂東太郎(ばんどう・たろう) 毎日新聞記者などを経て、日本ニュース時事能力検定協会監事、十文字学園女子大学非常勤講師を務める。著書に『マスコミの秘密』『時事問題の裏技』『ニュースの歴史学』など