「インフルエンサーマーケティング だけで長くは愛されない」と気づきはじめたブランドたち
ブランドにとってインフルエンサーマーケティングはますます複雑化している。 ブランドの創業者が気軽に面識のないインフルエンサーにDMを送信し、商品の無償提供と引き換えにブランドについて投稿してもらうことができた時代は終わった。今やインフルエンサー活動がいかに儲かるかを知る人が増えたため、クリエイターは料金を引き上げ、さらにはより大きな仕事の契約交渉を手伝ってくれる専属のタレントエージェンシーと連携するケースも増えてきている。スポンサードポストプライシングネットワークであるハッシュタグペイミー(Hashtag Pay Me)の2023年のレポートによると、インスタグラムのクリエイターが得る広告収益の平均は、2021年の3653ドル(約56万円)から2022年には5111ドル(約78万円)に増加した。 そのため新興ブランドはインフルエンサーに接触するうまい方法を模索する必要があるが、その一方で、インフルエンサーと手を組むために多額の資金を費やすようにというエージェンシーからの圧力に直面している。一部の小規模ブランドはインフルエンサーに直接商品を提供してレビュー投稿をしてもらうことで成功しているが、ビジネス規模が大きくなればなるほど、この戦術を拡大させることは難しくなるとわかっている。大手ブランドはある時点で、ブランドのニーズに基づいてもっとも効果的なタイプのインフルエンサーとマッチングするにはタレントエージェンシーに頼らなければならないと気づくことが多い。この方法はインフルエンサーとの関係やキャンペーンの円滑化に役立つが、スケジュールがより長期化し、月額料金が高くなる。
小規模ブランドにとっては効果的な商品ギフティング
スキンケアブランドのユースフォリア(Youthforia)でマーケティング担当バイスプレジデントを務めるティナ・シム氏は、創業3年の同社では、有料のインフルエンサーマーケティングは数千ドルという多額のコストを要するにもかかわらず売上が確約されている訳ではないため、最小限に抑えていると語った。「過去に一緒に仕事をしたモデルやクリエイターは何人かいるが、エージェントがついている今、支払える額ではなくなった」。 同じくスキンケアブランドのエクスペリメント(Experiment)共同創業者であるリサ・ゲレラ氏は、特にプログラムを外注しているブランドにとって、「インフルエンサーマーケティングは全体的に難しくなっていると思う」と話す。「また、多くのインフルエンサーがROI(投資利益率)をよく理解していない」と同氏は続け、そのため期待のミスマッチが生じる可能性もあるという。 ゲレラ氏は、彼女自身もTikTokクリエイターであるという点で有利だ。主に美容成分に関する教育的コンテンツを投稿しており、TikTokで6万1000人のフォロワーと200万の「いいね!」を獲得している。エクスペリメントは2020年に試験的に運営を開始したあと、2022年に正式に設立された。ゲレラ氏は認知度を高めるため、商品の無償提供と引き換えに、個人的に厳選したクリエイターたちと協力してオーガニックコンテンツを制作しているとのことだ。このクリエイターのなかには同氏の友人もいる。 「当社のようなまだ立ち上げたばかりの小さなブランドにとって、ギフティングは関係を築くもっとも合理的な方法だ」とゲレラ氏は言う。ギフティングはプロダクトシーディングとも呼ばれ、ソーシャルメディア上でのその商品に関する投稿やレビューを期待してインフルエンサーに商品を贈ることだが、すべてのブランドで確実に成功するわけではない。そして多くの場合、インフルエンサーが宣伝する気になるには、価値が高く話題性のある商品の必要がある。インフルエンサーマーケティングサービス会社のトラッカー(Traackr)が2023年に実施したマーケター対象の調査では、回答者の61%が、贈った商品についてソーシャルメディアに投稿してくれたインフルエンサーは半分未満であると答えている。 ゲレラ氏は、この1対1のアプローチは規模を拡大するのに時間がかかるが「最終的な費用対効果は格段に高いことがわかった」と話す。これまでのところ、同社はこの戦略で商品が安定して売れている。たとえば、同ブランドの美容液「スーパーサチュレーテッド(Super Saturated)」は昨年に2度も完売した。