VCは出資先のライバル企業に出資して良いか?
筆者の実例
Coralでもこの問題に直面したことがあります。以前、他の投資先とは競合しないとの理解のもと、あるスタートアップにシード投資を行いました。実際、もう1つの投資先とのやりとりでも、そのスタートアップが競合ではなく、むしろ協力し合える可能性があることを話していました。しかし、私たちの知らないうちに、そのスタートアップはその後1年間で、もう1つの投資先にどんどん似てきたのです。そして、私たちが投資してからだいぶ経ったタイミングで彼らは新たな資金調達を発表したため、もう1つの投資先からは私たちが追加投資をしたと勘違いされてしまいました。もちろん、私たちは追加投資をしていませんし、すでに投資した後に起こったことでしたので対処のしようもありませんでした。私たちはどちらの会社の取締役でもありませんし、両社間で情報を共有したことも一度もありません。この事態に私たちも慎重に対応しようとしましたが、感情的になりやすい問題であるため、当時は投資先企業との間に一時的に摩擦が生じてしまいました。 ありがたいことに、今は良好な関係ですが、この経験により私たちはより慎重になりました。「ファイアウォール」があろうがなかろうが、起業家が「裏切られた」と感じた時点で、どんな論理的な正当化もあまり意味がないのです。ですから私たちはシンプルに、競合する可能性のある投資先企業にまず彼らがどう感じるかを尋ねることを方針としました。投資後にスタートアップがピボットする可能性は依然としてありますが、少なくとも私たちが対策できる範囲内でのリスクについては多少和らげられます。ただし、スタートアップに投資する際には、同分野の別のスタートアップへの投資が今後制限されることによる機会損失も考慮しなければなりません。 非常に複雑な問題だと思います。今回のケースでは、私は起業家の肩を持つ立場ですが、さまざまな見方があることも理解できます。完全に避けるのは現実的ではないので、問題が発生した際に慎重に対応するしかないでしょう。例えば、競合する可能性のある会社の取締役にはならないことなどが、合理的な妥協点となるかもしれません。情報請求権で差をつけるのも1つの方法です。このような細かな点が、たとえ論理的でなくても、少なくとも起業家から見れば感情的な違いをもたらすことがあるのです。
James Riney