VCは出資先のライバル企業に出資して良いか?
投資先間の対立がいずれ生じることは避けられない
今後、日本の市場にスタートアップの数が増え、それぞれの志が大きくなるにつれて、レガシー企業を覆すための競争だけでなく、スタートアップ同士の競争も避けられなくなってくるでしょう。 同様に、ファンドの規模が大きくなれば、その資金をより多くの企業に投資しなければなりません。さらに運用期間が10年以上にも及ぶことを考えれば、投資先間の対立がいずれ生じることは避けられないでしょう。ファンドの投資モデルも影響します。リスクが著しく高い、シードからアーリーステージを対象としたファンドの場合、少なくとも25社からなる十分に分散されたポートフォリオを持つことが望ましいとされています。シードステージに特化したファンドの中には、50~100社に投資するものもあります。ちなみにCoralでは、マルチステージ投資家として1つのファンドにつき30~40社に投資し、それぞれのファンドで5~10社に主に資金を集中させています。この投資先の数と運用期間では、いずれ投資先間の市場の重複が生じることになるでしょう。 十分な経験を積んだ投資家の多くは、これらの要素をすべて考え抜いた結果、「いずれは競合する企業に投資することになるかもしれない」という、より正直な結論に最終的に到達します。特に長く続くファームであれば、この展開は避けられないものです。 この結論が出たとして、次に考えなければならないのが「How」です。つまり、「どのように対処するか」ということです。これに関しては、以下の2つの問いが重要になると私は考えています。 ・ファームの誰かが、その企業の取締役を務めていますか? 取締役になることで、より緊密な関与や、より多くの情報へのアクセスが可能になります。また、LP投資家だけでなく、投資先企業に対しても取締役として受託者責任を負うことになります。 ・その企業の業績は、妥当なイグジットに到達するのに十分ですか?(ゾンビ企業になっていないか)。 今回のCoralの投資先に関して言えば、どちらの問いに対しても答えは「イエス」です。ですから、今回の件では、個人的にはこの投資先の起業家の肩を持つ立場にあります。この投資家の提案した「ファイアウォール」ですが、これが解決策として十分だと言えない理由は、実際にはVCファームはチームメンバー間で情報を自由に交換することで機能するからです。特定のファイルへのアクセス権を閉ざしたり、チームのオフサイトで特定の投資先企業に関するブレインストーミングを禁止するのは、あまり現実的ではありません。情報共有は行われるものと考えておいたほうが良いのではないでしょうか。 ただし、公平を期すために言えば、ちゃんとした投資ファームであれば、ある投資先企業に関する情報を他の投資先企業の不利益になるような形で共有することはありません。完全に信用を失うリスクがあるからです。また、両方の会社の株式を保有しながら、そのような行動を取るインセンティブもほぼないでしょう(もしこのようなことが起こったという話をご存知でしたら、投資先の起業家たちに警告したいのでぜひ教えてください)。