バレーボール元日本代表の益子直美さんと考える、スポーツとアンガーマネジメント。「監督が怒ってはいけない大会」とは?
子どもたちが楽しくのびのびとプレーを。そんな思いから生まれた「監督が怒ってはいけない大会」
益子さんが再びバレーボールを楽しいと感じられたのは、高校の部活を引退したあとのこと。「下級生の練習相手をしているときに、『もう怒られることはない』と思ったら、すごく伸び伸びプレーができるようになって。あの時期がいちばん上手くなった気がします(笑)」。 実業団に入ると暴言や体罰が伴う指導は行われることはなく、「1年ぐらい羽を伸ばしすぎてしまいました(笑)」と益子さん。「以前のように必死に練習をしなくなったんです、怒られないから。今思うと主体性がなかったんでしょうね」。 しかし、「このままではいけない」と思い直して、自分を奮い立たせながら練習に励み、チームのエースとして日本リーグ初優勝に貢献。日本代表として活躍するも、25歳という若さで競技を引退します。 引退後は、スポーツキャスターやタレント、解説者として活躍。2015年に、子どもたちが楽しくのびのびとプレーすることを目的とした「監督が怒ってはいけない大会」小学生バレーボール大会を開催することに。 「最初は『益子直美カップ 小学生バレーボール大会』という名称で企画されたのですが、せっかくやるなら、勝利至上主義ではなく、子どもたちが笑顔で心からバレーボールを楽しいと思える大会にしたいと思い、“監督が怒らない”というルールを設けたらどうかと、大会を一緒に企画していた北川新二さん・美陽子さんご夫妻に提案しました。すると、元バレーボール選手で春高バレー常連の強豪校出身だった美陽子さんも“怒り”による指導に問題意識を持っていて、二人とも二つ返事で賛同してくれました」。
大会が掲げる理念は、「参加する子どもたちが最大限に楽しむこと」「監督やコーチ、保護者が怒らないこと」「子どもたちも監督もチャレンジすること」の3つ。試合の他に、子どもと指導者、保護者を対象に、アンガーマネジメントやペップトーク、スポーツマンシップに関するセミナーや、子どもたちが参加するクイズ大会やチーム対抗リレーなども行われます。大会中スポーツマンシップに測って笑顔で行動できた選手と監督には「スマイル賞」を授与したり、怒ってしまった監督には「×印」のマスクをつけたりするなどの工夫も凝らしています。 大会を開催するたびに、子どもだけでなく、大人も新たな気づきや学びが得られると益子さんは言います。「子どもたちに質問すると、想定外の答えが返ってくることがあります。例えば、『自分がスポーツマンだと思う人、手を挙げて』の問いに、手をあげられなかった女の子が『私は女の子なので“マン”ではありません!』って。これまで何の疑問も抱かずに使っていたと、はっとさせられました」。