中村 中「いじめをセクシュアリティのせいにしたくなかった」苦悩を曲にぶつけた学生時代 #今つらいあなたへ #性のギモン
デビュー後にトランスジェンダーであることを公表し、現在も歌手・役者として活躍している中村 中(なかむら あたる)さん。学生時代は「私をからかっていいという空気があった」「伸ばしていた髪を変だと言われ、上級生に髪を切られた」などつらい経験をしたが、何もかもを自分のセクシュアリティのせいにはしたくなかったという。どうやって生き延びたらいいんだろう、と葛藤する気持ちを作詞にぶつけてきた中村さんに、今の心境を聞いた。(聞き手:荻上チキ/TBSラジオ/Yahoo!ニュース Voice)
「トランスジェンダー」を公表したのは、根負けに近かった
――中村さんはご自身がトランスジェンダーであることを公表されていますが、意に沿う形でのカミングアウトではなかったそうですね。 中村 中: メジャーデビューする半年ほど前から、関係者から「プロモーションのためには、君の性別のことを公表した方がいいよ」と言われていました。でも、学校でからかわれたこともあったし、「デビューできるのはありがたいけど、公表は避けたい」と言っていたんです。でも「公表しないと売らないよ」と。「音楽だけではダメなの?」と思うとへこんでしまって、どんどん自信がなくなってくるわけです。根負けに近いかたちで公表することにしました。 そういった経緯があるので、セクシュアリティを公表して活動しているわりには、あまりその事柄について進んで話したいわけじゃないんです。でも、なぜか「カミングアウトしている人だから何でも聞いていいだろう」と思われてしまう場面もあって、苦労したこともありましたね。「なんでカミングアウトしたのにこれ聞いちゃダメなの?」って言われると、公表した経緯を説明しなければならず、それを説明するのは当時のスタッフを裏切る事になるし、自分もかっこ悪いと思ってしまって、譲ってしまうクセがついていました。
からかわれても自分のセクシュアリティのせいにしたくなかった
――ご自身がトランスジェンダーであることには、いつ頃から気づき始めたのでしょうか。 中村 中: 例えば、私が幼稚園に通っていたとき、食事後に自由時間があって、Winkの「淋しい熱帯魚」がかかっていたんです。ちょっとほの暗いユーロビートみたいな曲で、爽快な気持ちにはならない曲だったけど、私はすごく好きになって振り付きで踊っていました。家で踊っていると、家族から「変だよ」と言われてしまったのですが、何が変なのかがわからない。紐解いていくと、「男の子がWinkを踊っているのが変だ」と言われていることにだんだん気づいてきて、多分それが違和感の始まりだったと思います。 あと小学生のときに、数人で家に押しかけられて、とある女の子に「あいつは豚小屋に住んでる」と言いふらされたりしました。先生に助けを求めたら、「君さ、なんで泣いてるの?男の子なのに女の子にそう言われたぐらいで泣くなんて変だよ」って。こっちの方が嫌な思いをしているはずなのに、“男の子なのに”とか“変だ”とか言われちゃうんだ、とショックでした。 ――性別を理由に「変だ」と決めつけられるのはつらいですね。 中村 中: 中学時代には、上級生がハサミで私の髪を切ってきたことがあって。私は小学生の頃にはもう「女性として生きていきたいな」という気持ちが芽生えていたので、髪の毛を少し長くしていたんです。すると、やっぱり「変だ」と言われて、髪を切られたんですよね。 まず上級生がハサミを持って私のところに来るのが怖い。加えて、「私をからかっていい」という空気感が同級生を越えて上級生にまで伝わっていることも怖い。誰が上級生に言ったのかがわからなくて、仲良くしてくる人も全員疑わしいから、どんどん人を信じられなくなりました。 一人称を「俺」と言えないことも変だと言われました。「俺」って言えよ、と詰め寄られたり。「ぼく」と言ったり、自分の下の名前で「中は」と言ったりしていたんですけど、またそれもまた妙に映ったんですかね。 いろいろ工夫をするタイプの子どもだったのですが、いつも裏目に出てしまっていました。でも、そのからかいやいじめを、私は何もかも自分のセクシュアリティのせいにはしたくないんですよ。悩みの原因が自分側にあると認めてしまうと、こちらがずっと悩まなきゃいけないことになってしまうので。