中村 中「いじめをセクシュアリティのせいにしたくなかった」苦悩を曲にぶつけた学生時代 #今つらいあなたへ #性のギモン
歌詞を書くことで自分の中でバランスを取っていた
――中村さんは中学生の頃から詩や曲を書いていたそうですね。はじめて歌詞を書いたときは、どんな思いを込めたのでしょうか。 中村 中: はじめて曲にしてみたのは、後に紅白歌合戦でも歌った「友達の詩」でした。中学生って、クラスの中で「誰が好きなの?」「好きな人いるの?」といった話がされていて、異性同士が一緒に帰るのを目撃すると、次の日にはクラス中のトピックになるような年頃ですよね。私はそういったことには縁のない人生なのかな、と当時から思っていて、「自分の人生には諦めなきゃいけないことがある」と感じた気持ちを書きたくて書いたんです。 今だからこうやって説明できるのですが、書いた当時はこんな風に説明できるような状態ではありませんでした。「諦めなくちゃいけないんじゃないかな」という気持ちと「本当に諦めなきゃいけないのか」という気持ちが同時にあって、でも歌詞にすると自分の考えが整理されるようで、そうやってバランスを取っていましたね。 「生きるのが本当にきついな」と感じてしまうこともあり、そんな自分を嫌だと感じることもあった。だからこそ「これからどうやって生き延びたらいいんだろう」「どうやったらここを切り抜けられるだろう」と、自分の中で模索していくことになりました。この感情が、歌を作るという行動に繋がっていったんだと思います。
セクシュアリティを話し合うには「関係性」が必要
――最近はSNSなどでセクシュアリティについて語られることも少なくありません。中村さんはSNSとどう向き合っていますか。 中村 中: 私、SNSはあまり得意ではありません。例えば、今回のようなインタビューだと、ある程度の覚悟を持って話し合ってくださるじゃないですか。だから私も答えられます。 だけど、SNSでは、覚悟がなくても一線を越えてしまえます。そういう場は私にあまり合っていなくて。だから、SNSとは距離を取っています。 ――セクシュアル・マイノリティの方が安心して語ることができる環境になるためには、何が必要だと思いますか? 中村 中: やっぱり関係性だと思います。仲良くなってからでないと聞けないことが、いっぱいあるじゃないですか。例えば、セクシュアル・マイノリティの人に関心がある人でも、関係性がないのにいきなり「ねえねえ、中ちゃん、いつから自分が女の子になりたいって思ったの?」と言われても、答えにくいです。 以前、仕事の現場でそうやって急に聞かれたことがあったんです。「え、答えたくないですよ」と言っても、「え、なんで?私、友達にゲイの子とかもいっぱいいるから大丈夫だよ」と言われてしまって……。でも私は大丈夫じゃないから話したくないな、と。 やっぱりセクシュアリティを公表しているから、公表した以上は何を聞いてもいいと思われているのかもしれないですね。私は現場で一度も自分のセクシュアリティの話をしていなかったのですが、そういう会話が起きたので。 関係性ができあがってないうちは、セクシュアル・マイノリティの当事者に関わらず、どんな人でも、何でも聞いていいわけではないですよ。例え自分が既に知っている事でも、人前では語られたくない事はどんな人にもあると思います。関係性によって言えることと言えないこともありますから。時間をかけて関係性を築いた上で、やっと出来る会話があると思うし、必要ないなら語らない・尋ねないということもアリだと思います。 ----- 中村 中 1985年生まれ、東京都出身。歌手・作詞作曲家・役者。中学生の頃から独学で音楽を作り始め、2006年メジャーデビュー。2007年にはNHK紅白歌合戦に出場。役者としてNHK 連続テレビ小説『虎に翼』に出演するほか、多くの舞台でも活動している。 文:遠藤光太 (この動画記事は、TBSラジオ「荻上チキ・Session」とYahoo! JAPANが共同で制作しました) 本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。 「#今つらいあなたへ」は、Yahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の一つです。つらい気持ちを抱えた人の「生きるための支援」につながるコンテンツを発信しています。 「#性のギモン」は、Yahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の一つです。人間関係やからだの悩みなど、さまざまな視点から「性」について、そして性教育について取り上げます。子どもから大人まで関わる性のこと、一緒に考えてみませんか。