「見えない左」で連続KO勝利。中谷潤人が沖縄拳法伝承者に学んだ突きの極意とは
7月20日、東京・両国国技館。WBC世界バンタム級王者・中谷潤人はWBC同級1位のビンセント・アストロラビオ(フィリピン)を初回、ボディへの左ストレート一発でキャンバスに沈めて初防衛に成功した。試合翌日、「勝利に要した時間はわずか157秒」という圧巻KO劇を披露した中谷に、試合の振り返りやこれからについて聞いた。(全3回の第2回) 【写真】王座を獲得した前戦の戦慄KOシーン ■KOパンチの感触は「まったくありませんでした」 試合後、アストロラビオが「彼のパンチは見えませんでした」と語った、中谷の槍を突き刺すような左ボディストレート。前戦、顔面を打ち抜かれてダウンしたアレハンドロ・サンティアゴ(メキシコ)も同じように「倒されたパンチは見えなかった」と振り返っていた。しかし、同じ死角からの左ストレートでも「顔面」と「ボディ」という違いだけでなく、戦略は大きく違っていた。 「サンティアゴ戦は、相手のバランスを崩し、視線をずらしてできた隙間に打ち込んだ左ストレートでした。今回はアストロラビオ選手に顔面のガードを固めさせて目隠しした状態を作り、ボディに攻撃される意識を遠のかせて打った左ストレートでした」 無駄な動きのない、静かに滑るように体重移動しながら放たれた左ストレートは、「豪快」や「躍動」といった言葉とは少し違う、その正反対にあるような、「自然」という言葉が当てはまるパンチに思えた。 中谷自身も試合後の会見で「感触はまったくなくて、柔らかかったので『これで効くんだ』という感じでした」とコメントしたように、気づけばキャンバスに拳と膝を突いて苦悶の表情を浮かべるアストロラビオが中谷の目の前にいた。 アストロラビオを一発で仕留めた中谷の左ボディストレートは、「見えなかった」というよりも「意識させなかった」という言葉のほうがより的確な表現かもしれない。 「あの場面は『左ボディを狙おう』と頭で考えたわけではなく、身体が勝手に反応してパンチが出ました」 試合前は左ボディストレートよりも、アストロラビオの右ストレートに対してカウンターで左ボディフックを合わせるイメージをより強く持っていた。ただ今回に限らず、いかなる状況も想定し、いくつも引き出しを用意して試合に臨むことを大切にしている。インタビューを続けるうち、ひとつひとつの引き出しを、頭で考えるよりも早く瞬時に開けられるようになるまで、根気強く、日々時間をかけて技術を磨き、体に染み込ませていることを改めて知った。 ■拳は真っ直ぐ、相手の軸に向かって打つ 無駄な動きのない槍で突き刺すような左ストレート。中谷がその技術を習得する上で、ある武道家との出会いが影響していた。沖縄拳法の伝承者で武術家の山城美智(やましろ・よしとも)氏だ。