「見えない左」で連続KO勝利。中谷潤人が沖縄拳法伝承者に学んだ突きの極意とは
沖縄拳法空手道「沖拳会」創設者の山城氏は、古くから沖縄に伝わる武術「手(てぃ)」を後世に広く伝えるための活動をしている。2021年東京五輪で空手の組手部門で日本唯一のメダリスト(銅)になった荒賀龍太郎、UFCにも参戦経験のある総合格闘家の菊野克紀らプロアマ、競技問わず多くのトップアスリートに慕われている。 中谷は6月12日にNHKで放送された、日本が誇る武の達人たちと共に武術の視点でスポーツの神髄に迫る番組『明鏡止水 武の五輪』にゲスト出演した。「拳を打ち抜け」というお題で、ボクシングのパンチや防御の技術を披露した。その際、同じくゲスト出演した山城氏に放送では紹介されなかった時間に聞いた話から、パンチの技術向上のヒントを得ていた。 「山城先生から拳で突く極意、大切にすべきことを教えていただきました。軸の中心を捉えたとき、相手の体感速度はより速くなる。相手の軸に対して直線を意識する。軸の中心を捉えるためにポジションをずらす。でも拳は真っ直ぐ、相手の軸の中心に向かって打つ、というような技術です。 『筋力に頼らず、重心(体重)を拳に伝える』『スピードに頼らず、起こり(初動)を見せない』という山城先生のお話が、自分も大切にしているパンチの技術と重なって、今回の試合に向けてとても参考になりました」 アストロラビオ戦後、山城氏は自身のX(旧Twitter)で中谷をこう称賛していた。 ≪明鏡止水の撮影の際、実はリハーサルでもじっくり強さの秘密について聞かせていただいていました。 あのスタンスと腰の高さ、上半身の可動範囲、足腰肩をフルに使った左ストレート、そして戦略。 大変良い勉強をさせていただきました。 改めて、反射神経や筋力、リーチなどのフィジカルだけの戦いではなく、戦略をどこまで突き詰めて貫くかが勝負の決め手となる時代がきたのだと思いました≫(一部略) ボクシング以外の教えや考えでも、柔軟に吸収して自分の力に変えることができる。それが中谷潤人というボクサーの強さ、世界の頂点に立ってもなお成長し続けられる理由かもしれない。 そんな中谷を語る上で欠かせない人物が、15歳で単身、米ロサンゼルスに渡って以来指導を仰ぐルディ・エルナンデスだ。筆者は今回初めて、ルディ本人から中谷についてうかがう機会を得た。 (つづく) ●中谷潤人(なかたに・じゅんと) 1998年1月2日生まれ、三重県東員町出身。M.Tボクシングジム所属。左ボクサーファイター。172㎝。2015年4月プロデビュー。20年11月、WBO世界フライ級王座獲得。23年5月、WBO世界スーパーフライ級王座獲得。今年2月24日にはWBC世界バンタム級王座を獲得し3階級制覇達成。28戦全勝(21KO)。ニックネームは〝愛の拳士〟 取材・文/会津泰成 撮影/ヤナガワゴーッ!