トランプ新政権で「オバマ・ケア」はどうなる? その成果は
次期アメリカ大統領は共和党のドナルド・トランプに決まりました。また、連邦議会上下両院で共和党が多数を維持することになりました。その結果、バラク・オバマ大統領が2期8年の任期中に築いたレガシー(政治的遺産)が崩壊の危機に瀕しています。 【写真】「移民社会」アメリカが変わる? トランプ氏が掲げた過激主張 オバマ政権の最大の業績の一つが医療保険制度改革(いわゆる「オバマ・ケア」)であることは論を俟たないでしょう。では、オバマ・ケアとは一体どのようなものなのでしょうか。また、トランプ次期大統領の下、オバマ・ケアはどのような扱いを受けることになるのでしょうか。(成蹊大学教授・西山隆行)
早くから民間医療保険が普及
医療保険は多くの国で公的に提供されています。医療保険制度を完全に自由化すれば、健康状態が悪い人が保険に入りたがる一方で、健康な人が保険に加入しない可能性が高くなります。他方、保険会社は既往症があるなど健康リスクのある人の加入を拒否するのが合理的になります。保険の本質が「リスクの共有」にあることを考えると、医療保険を適切に機能させるためには、何らかの強制加入の要素を加える必要があるのです。 アメリカでは、高齢者向けの「メディケア」、低所得者向けの「メディケイド」、児童向けの保険を例外として、医療保険が公的に制度化されていません。言い換えるならば、退役軍人向け医療サービスを受けることができるなどの例外的な場合を除いて、医療保険に加入したい人は、雇用主が従業員に対して医療保険を提供する雇用主提供保険を契約しているような企業に雇用してもらうか、あるいは、直接個人で民間医療保険に加入する必要があるのです。 多くの国で国民皆医療保険が公的に制度化されたのは第二次世界大戦の時期ですが、市場経済が早くから発達していたアメリカでは、20世紀初頭にはすでに民間医療保険が開発されていて、1950年にはすでに国民の半数が医療保険に加入していました。このような状態で政府が医療保険を公的に制度化することは、小さな政府という価値を強調するアメリカでは民業圧迫と解釈され、保険会社などから強く反対されたのです。 このように、アメリカでは医療保険が民間保険を基本とし、雇用と密接に関わる形で提供されています。その結果、アメリカの医療保険には雇用における格差などの問題がそのまま反映される結果となりました。2010年の人口統計調査によれば、人口の16.3%にあたる4990万人が無保険状態にありましたが、その大半が失業者や低賃金の職種に従事する人に集中していたのです。