トランプ新政権で「オバマ・ケア」はどうなる? その成果は
人種・民族問題ともリンク
人口が3億人を超す近年のアメリカで、5000万人近くの人が医療保険を持っていないというのは、驚くべきことです。しかし、これは、アメリカでは国民皆医療保険制度が存在していないにもかかわらず、ほぼ6人に5人もの人が医療保険を持っていることも意味しています。アメリカで民間医療保険がいかに広まっているか、お分かりいただけるでしょう。 アメリカで、医療保険改革の必要性があるかを問うた世論調査は、興味深い結果を示しています。8割を超える人が何らかの改革の必要性あり と答えていますが、同じ調査で、7割を超える人が自らを取り巻く医療の状況に満足していると回答しているのです。これは、医療保険改革の必要性を感じてはいるものの、自らに経済的負担が及ぶことがわかれば改革に反対する可能性のある人が相当数いる可能性を示していたといえるでしょう。 オバマ政権が一時期導入を検討したパブリック・オプションと呼ばれる公的医療保険制度の創設案は、既に保険に加入している人には積極的な意味が見いだせない物でした。それは、既に自ら医療保険に入っている人からお金を徴収して無保険者を助けることを意味すると考えられたのです。 問題を複雑にしたのは、その医療保険を持っていない人とは、黒人や中南米系などのマイノリティを意味すると考えられたことでした。先ほど、アメリカでは医療保険が雇用と密接にかかわる形で提供されていると指摘しましたが、マイノリティは相対的に失業率が高く、また、雇用されている場合でも所得水準が低かったり、雇用主によって医療保険が提供されていない職種に従事していたりすることが多かったのです。このように、医療保険制度の問題は人種・民族問題とも関連して議論が紛糾したのです。
無保険者は9.1%にまで減少
オバマ・ケアでは、最終的にはパブリック・オプションは導入されず、アメリカ国民に民間を含めた何らかの医療保険への加入を義務付けることになりました。その結果、医療保険に加入しない人には、保険加入に相当する程度の罰金が科されることとなりました。その結果、オバマ・ケアは民間医療保険会社に新たな市場を開くことになりました。むしろ、そうであったがゆえにオバマ・ケアは成立することができたと言ってもよいかもしれません。 もっとも、改革の結果、メディケイドの受給要件が緩和されて、従来は原則として所得が連邦の貧困線を下回る母子家庭にしか提供されていなかったのが、貧困線の138%にまで対象を拡大するとともに、男性が世帯主の家庭にも提供することができるようになりました(実際に拡大するか否かは州政府の判断に委ねられました)。また、貧困者の医療保険加入を容易にするための補助金が導入されることにもなりました。その結果、アメリカの無保険者は2015年には9.1%にまで減少することになりました。無保険者がこれほどまでに減少したのは画期的なことであり、オバマ・ケアの大きな成果と言ってよいでしょう。 しかし、オバマ・ケアには様々な免除規定が存在しているので、無保険者はゼロにはなりません。また、医療費や保険料を抑制するための仕組みを導入できていないという問題もあります。結果的に保険料が上がってしまった人も多いと指摘されています。さらには、新たに医療保険に加入した人々の健康リスクが政府の想定より高かったことから、民間医療保険会社の利益が思いの外少なかったため、オバマ・ケアから撤退する保険会社も出ています。