【府中便り】イブンベイに騎乗した日本人騎手…河津裕昭調教師とジャパンCデーの東京競馬場で…
「もう30年以上前になるんだね」。ジャパンCが行われる24日の東京競馬場。声の主は河津裕昭調教師(58=川崎)。この日から34年さかのぼった90年11月25日の第10回ジャパンCで唯一、外国馬に騎乗した日本人騎手が、8Rのベゴニア賞に自身の管理するアルメールヴェント(牡2)を出走させるために訪れた。 「もちろんこの日(ジャパンC当日)ということもあったし、ベゴニア賞を使える馬もいて、ミシェルもいたからね。せっかくだから」。今年のジャパンCはオーギュストロダン、ゴリアット、ファンタスティックムーンと外国馬が3頭来た。それに加え、ライアン・ムーア、ウィリアム・ビュイック、クリストフ・スミヨン騎手、エイダン・オブライエン調教師など、世界的な顔触れになった一戦だった。 「ジャパンCに乗ることもそうだけど、俺は憧れの騎手だったスティーブ・コーゼン、パット・エデリーに会えたことが大変貴重な経験だった」と師は懐かしむ。英のイブンベイとともに挑み、8着だった。第4回カツラギエース、第5回シンボリルドルフと日本馬の勝利はあったが、まだまだ外国馬の方が好成績を残す時代だった。「馬場に出るとさ、ファンの歓声が地鳴りのようだった。イブンベイは乗り味が抜群の馬だった。こんなにいい馬がいるんだって思った」。欧州のG1を4勝している馬。前走のBCクラシックで2着に入っていた。「馬主の相馬恵胤さんが、『BCで2着までに来たらジャパンCを使うから』と聞かされていて、そしたら本当に2着になった。冗談みたいな話でえーっとなった。それで騎乗がかなった。感謝したい」と語った。 今はレースを見守る立場。これまでに管理馬を東京に出走させたことは何度もあったが、JCが行われる日に出走させたのは、03年のベゴニア賞にインヴァリッドで挑戦して以来2回目。今回のベゴニア賞でのアルメールヴェントについては、「芝自体の走りは悪くなかった。ただスタートのロスとかがね。長丁場ならもっと良さそう」と収穫はあった。また中央に挑戦するかもしれない。 「思い出深い府中。当時とは芝の色が違うね」と師はしみじみと語る。馬場、スタンドなどの改修により姿形は変われど、競馬を楽しむファンは変わらない。34年前に声をからしたファンが、また来ているかもしれない。貴重な経験、記憶は師がいま回想したように、ファンや関係者1人1人のものとしてそれぞれ残っている。そして毎年、この日が近づくと自然と思い出し、親しい誰かと語り合う。それが競馬の醍醐味(だいごみ)だ。第44回ジャパンCを見届けた河津師もきっとそうしていることだろう。【舟元祐二】