【ジャパンC】完璧騎乗の武豊を田原成貴氏も絶賛!ドウデュースVの裏にあった〝経験〟と〝技術〟を徹底解析
[GⅠジャパンカップ=2024年11月24日(日曜)3歳上、東京競馬場・芝2400メートル] 【写真】熱い抱擁!武豊とイチロー氏 圧勝を生んだ極小の差――。国内外のスターホースが集ったGⅠジャパンカップ(24日=東京芝2400メートル)は1番人気のドウデュース(牡5・友道)が天皇賞・秋に続いてGⅠ2連勝、5つ目のタイトルを手にした。鞍上の武豊は歴代最多のJC5勝目を挙げ、勝利後はプレゼンターのイチロー氏(51)とガッチリ握手。このレースを見た元天才ジョッキー田原成貴氏(65)は最強人馬を大絶賛しつつ、素人目には決して分からない勝利の要因を語った。
「とにかく折り合いがカギ」だったドウデュース
世の中こんなにうまくいくものか。そして、ここまで競馬の神様に愛された男はいただろうか。千両役者。彼のために存在する言葉だ。少なくともジャパンカップが行われたこの日だけは。ドウデュースを勝利に導き、野球界のスーパースター・イチローさんから祝福されたファンタジスタ・武豊を見て、改めて偉大さを痛感した。 単勝2・3倍、断然1番人気。大きな期待を背負ったドウデュースに対し、オレはレース前から「とにかく折り合いがカギ」と言い続けてきた。フタを開けると、よりによって折り合いがつきにくい超スローペース。ひっかかる馬に乗るジョッキーにとって、これほど頭の痛い状況はない。案の定、ドウデュースは行きたがった。もちろんユタカくんはスローを覚悟していただろうが、内心は焦ったはずだ。レース映像を見ると、何とか落ち着かせようと拳を上げて手綱を引っ張っているのが分かる。そうとう苦労したはずだ。馬乗りとしては、ここでポンと放したくなるもの。しかし、彼は最後方で耐えた。ガマンすれば絶対に最後にいい脚を使える――。それを誰より知っているから、ガマンして相棒を信じ続けた。結局、スポンと折り合うことができた。オレはこの時点で勝負があったと確信した。
「ユタカ」が動いたのではない。「馬」が動いたのだ
もう一つ、彼の「経験」と「技術」が存分に生きたシーンがある。4コーナー手前、馬群がやや一団となった時だ。ユタカくんとしては、直線を向くまで同じ位置でゆっくりしたかったろう。しかしドウデュースは動いた。ここが最大のポイントだ。「ユタカ」が動いたのではない。「馬」が動いたのだ。普段からオレは「待った方がいい」「早仕掛けはダメ」と口癖のように言うが、それは騎手が自分から動いた時のことを指す。だが、今回はハミを取って出て行こうとするドウデュースに対し、ユタカ君はケンカせずにあくまで行かせただけ。騎手が動くか、馬が動くか――。これは天と地ほどの違いがある。簡単そうに見えて、非常に難しい技術。微妙な感覚の世界だ。「武豊が早めに動いた」と思う方もいるだろうが、実際は“行かせた”だけなのだ。 あの時、もしユタカ君が自分から出して行ってあの位置を取りにいっていたら、恐らく負けていただろう。その分だけ最後にシンエンペラー、ドゥレッツァに差し返されたはずだ。馬のリズムを優先させて行かせたことが大正解。4コーナーを回った時点でユタカ君の仕事はおしまい。馬群の外に出し、勝負は決した。最後は脚がやや上がっていたが、きっちり持たせることができた。着差以上の圧勝劇だった。 それにしてもドウデュースが一番強いと分かっていながら、逆に「どうすれば負かせるか?」を考えたヘソ曲がりのオレを、ユタカ君はあざ笑っているだろう。55歳といえば、世間ではヒザや腰が痛くなる年齢。それなのに、ああいうミスのない完璧な騎乗ができるのだ。レース前に黄綬褒章を受章し、初めて競馬場に来た友人のイチローさんに見守られ、多くのファンや報道陣に勝利を期待された。それを台無しにしなかったのは、2分25秒間きっちりプロの仕事をしたからだ。 2着(同着)になったシンエンペラーの坂井瑠星くん、ドゥレッツァのビュイックさんも素晴らしい競馬をした。しかし、この日ばかりは助演男優賞だ。やっぱり主役は武豊。まだまだ競馬界で彼の代わりになる者は出てこないだろう。
東スポ競馬編集部