政治集会というよりまるで「フェス」? 韓国大統領弾劾の裏でうごめく権力闘争
しかし、私は高揚感を覚えなかった。国籍が違うから、ということ以上に、韓国社会が今回の事態に至った背景を直視するのを避けているように思えてならないためだ。戒厳令という極めつけの悪手が放った衝撃が強すぎたせいかもしれない。 まず、検事一筋で政治経験がなかった尹錫悦であったが故に戒厳令という極端な選択をした、という批判が強い。であるなら、彼を大統領候補として迎え入れた保守派与党「国民の力」も責任を追うべきである。
「国民の力」では、朴槿恵が弾劾されて政権を進歩派に奪われて意気消沈していたところ、文在寅(ムン・ジェイン)政権と真っ向から闘った検事総長の尹錫悦が救世主に映った。党内に有望な人材はいなかった。 そうした切羽詰まった状況から、「これが正しい」「相手は悪だ」と決めるとどこまでも突っ走るという彼の性格を十分に理解しないまま、大統領選で勝てるかもしれないという一点だけで担いだといえよう。 一方、「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)はじめ野党側も、やはり尹錫悦とは何者かを十分に理解しないまま、手段を選ばず彼の足を引っ張り、挑発を繰り返した。
戒厳令を出した際、彼は野党が22件もの弾劾訴追案を発議し、行政府を麻痺させていると非難した。実際、野党が弾劾のターゲットにしたのは、省庁トップ、裁判官、検事、放送通信委員長など多岐にわたる。 ■尹錫悦という人物を政界は理解していたか とりわけ、自分たちの意に沿わない司法判断をしたからといって裁判官や検事を弾劾しようというのは、三権分立を脅かす。ましてや、尹錫悦は元検事総長。怒りを募らせないはずがない。
金建希(キム・ゴンヒ)大統領夫人のスキャンダルをめぐっては、野党が国会での多数の力で特別検察官の任命を可決し、それを尹錫悦が拒否権を行使して止める、というサイクルが3度繰り返されている。 頑なに夫人を庇う尹錫悦の姿勢には与党からも苦言が呈されていたが、夫人の問題はいずれも国家を左右するほどではなかった。単に、「叩けば叩くほど政権支持率は下がる」という、政争における強力なカードに過ぎない。 そして、これは決して尹錫悦に賛同するわけではないのだが、彼は骨の髄から北朝鮮の全体主義を敵視し、自分を妨害する者は北朝鮮と通じているようにしか映らない、という世界観の持ち主であった。