政治集会というよりまるで「フェス」? 韓国大統領弾劾の裏でうごめく権力闘争
剔抉は「えぐり出す」という意味で、ニュアンスとしては「撲滅」に近い。そうしたメッセージからもわかるように、保守派は尹大統領が12月3日に戒厳令を出した際に理由として掲げた「韓国国民の自由と幸福を略奪している破廉恥な従北反国家勢力を一挙に剔抉し、自由憲政秩序を守るため」という言葉に、激しく共鳴しているのだ。 ■ピザやマージャンの旗が翻る 話を弾劾支持派が押しかけた汝矣島に戻すと、もう1つ、前回とは変化した風景があった。やたら旗が多いのだ。戦の武将たちかと思わせるほど翻っていた。
「いかにも」という労働組合支部のものも少なくはなかったが、むしろ政治色とは無縁のコミカルな旗の方が目立っていた。「全国サンタクロース総連合会」、「ハワイアンピザ愛好会」、麻雀の牌やアニメのキャラとおぼしき少女が描かれた旗……。 くだんの女子高校生たちも「DARK MOON 吸血鬼と狼男保護協会」という旗を掲げているので、「何の旗?」と訊くと、「ああ、これ(笑)。漫画のキャラクターにちなんでなの。みんな自分たちの好きな旗を作って楽しんでるのよ」とのこと。
大統領が戒厳令を宣布し、それが内乱罪にあたるかどうかが問われている事態とは思えないほど、若者たちは屈託がない。 もちろん、12月4日未明に戒厳令の解除が国会で議決されず、今も一切の政治活動や集会が禁じられていたならば、このような明るい雰囲気が広がることはなかった。メディアも戒厳司令部の統制下に置かれていた。韓国社会は一気に1980年代中盤までの軍事独裁時代に逆戻りしかねなかったのだ。 あらためて、一晩かぎりで戒厳体制が終わったのは幸いであったと思う。
尹大統領の弾劾訴追案を採決するための国会は午後4時から開かれ、それから約1時間後に結果が議長によって読み上げられた。「賛成204人」と可決に必要な200人を超えたことが明らかになるやいなや、汝矣島は歓声に包まれ、赤と青の風船が空に放たれた。 ■華やかさの裏に権力闘争の怨念 人々は抱き合って喜び、K-POPの演奏が再開され、場所によっては伝統的な楽器で演奏するサムルノリを披露するグループも。野外フェスのような盛り上がりは最高潮に達した。