「既に各国が対策」…【'25年7月隕石衝突で地球滅亡】を国立天文台の学者が検証して”わかった事”
「’25年7月5日、地球に隕石・小惑星が衝突する」 そんな説がインターネットを中心に広がりつつある。6600万年前の地球の支配者だった恐竜を絶滅させたような大隕石が衝突するとしたら、確かに人類は滅亡を免れないだろう。 【何も残らないのか……】巨大津波、巨大地震で大ダメージを受けた「焼け野原の地球」 「7の月に地球滅亡」といえば、「ノストラダムスの大予言(一九九九の年 七の月 恐怖の大王が天より降り立つ)」が思い出されるが、今回流布している説の発端は自身の予知夢を漫画に描写し東日本大震災を予言したというたつき諒氏の漫画『私が見た未来』にある。 「大災害は’11年3月」と東日本大震災を的中させた同氏の漫画に「’25年7月に大災難が起きる」と描かれているのだ。ただし、その大災難が巨大地震なのか海底火山の噴火なのか、隕石・小惑星の落下なのかは不明だ。 もう一つ、この説を後押ししているのが米国の先住民族ホピ族の古くからの予言で、「青い星が出現したら、この世が終わる」というのがその内容だ。それが現在、「ある日本人が、ホピ族の長に緑の彗星が’25年に衝突する、と聞いた」という都市伝説に発展している。 何より、大きかったのが科学者による権威付けだった。東北大で天文学を学び、京都大、名古屋大で理論物理学、数理物理学を学んだ後、スイス・ジュネーブ大学で理論物理学科の講師を務めたノートルダム清心女子大学名誉教授の保江邦夫氏がYouTubeなどでNASAのOBから情報を入手したとした上で、「’25年7月5日に小惑星の破片が衝突する」「占い師や予言者は高台に住居を移している」と発信しているのだ。 なぜ来年なのか、隕石・小惑星の衝突は予測できるのか、人類の歴史が終焉する可能性はあるのか。国立天文台の天文学者でNPO日本スペースガード協会の理事でもある山岡均氏(59)に聞いた。 ◆各国の専門機関が対策している 「そもそも、天文学的には『隕石落下』という言葉に違和感を覚えます。『隕石』は小天体の破片であり、また『落下』は地球の重力によるもので、(地球の重力が働かない宇宙空間から飛来していることから)、『小天体の地球衝突』と言うほうが的確でしょう」 山岡氏はまずそう指摘した上で話し始めた。小天体の衝突を防ぐため、各国の専門機関が対策を立てているという。 「1990年代にスペースガード(プラネタリーディフェンス)という天体の地球衝突から人類を守るためのプロジェクトが始まっています。1996年に国際スペースガード財団、日本スペースガード協会が設立されました」 プロジェクトの成果もあって、地球に接近する天体(Near-Earth Object:NEO)の発見が急速に増大した。日本スペースガード協会によると、地球の軌道近くまで接近するNEOは約400個も発見されているという。 「NEOが発見されるとまず軌道を計算します。地球に衝突しそうなのか、衝突の危険はないのか、監視します。その上で軌道をそらすことができないか、試しています。たとえば、樹脂製の薄膜で作った帆を天体に張って、太陽の光を受けることで推進力として少しずつ軌道をずらしていく実験です。 実際、’04年に『’29年に地球に近づく直径約340mの小惑星アポフィス』が発見されました。アポフィスは地球に衝突はしませんが、各機関は探査を続けています。例えば、NASAは探査機を小惑星に衝突させることで軌道がどれくらい変わるか、実験しています。JAXA(宇宙航空研究開発機構)も同様の対策を今後講じていく予定です」(山岡氏) JAXAは’26年7月に小惑星探査機「はやぶさ2」を、地球に近づく可能性があるとされている小惑星「2001 CC21」に接近させて探査する予定だ。ただし、「小さな小天体の場合は観測できない」場合があるという。 「’13年2月15日にロシアのチェリャビンスク州に衝突した隕石や、’20年7月2日に千葉県で『火球が目撃された』と話題になった習志野隕石のように、衝突する直前まで観測できないケースがあります」 直前までに観測できない隕石があるとなると、恐怖でしかないが……小天体の衝突により、どのような被害が想定されるのか。 「地球に天変地異を引き起こすような大きなものは観測できます。直径1km以上の天体であれば観測できるのです。数十mだと観測できない場合があります。例えばチェリャビンスク隕石がそうで、衝突による死者は出ませんでしたが、窓ガラスが割れてケガをした方がいました」 チェリャビンスク隕石は上空27㎞で分裂。その衝撃波によって、爆発地点から50㎞離れたチェリャビンスク市内全域の4474棟もの建物が損壊。1491人が負傷したという。 チェリャビンスク隕石は直径約17m、重さは約1万tと推定されている。ニュートン力学では、衝突のエネルギーは質量×速さの2乗に比例するので、隕石の大きさが2倍になれば、衝突のエネルギーは3乗で8倍となる。もしチェリャビンスク隕石より大きく、かつ観測できない可能性がある直径数十mの小天体が地球に衝突する軌道上にあったとしても、大気圏内に突入するまでに観測できないと対策は不可能だ。 「結論からいって、『’25年に隕石が地球に衝突し人類が滅亡する』のはオカルト的な都市伝説に過ぎません」と山岡氏は断じたが、直径数十mの小天体が探知されずに大気圏内に突入することは起こり得る。そうなると「大災害が起きる可能性はゼロではない」(山岡氏)という。 隕石が衝突すると判明した後、我々にできることといえば……少しでも被害が少なそうな地域に避難するか、地下シェルターに潜るか、あとは祈るくらいだろう。大宇宙の前では、人類は吹けば飛ぶようなちっぽけな存在だ。過度に恐れることはないが、生かされていることを「当たり前」だと思ってはいけないのである。 取材・文:深月ユリア
FRIDAYデジタル