92歳女性が「老人ホーム入居の夢」をあきらめた訳 老いの現実を知り、上手に付き合うためのコツ
その話を、介護の現場に詳しい広島の社会学者、春日キスヨさんにしたら、「80代半ばであれば、それは当たり前。なのに、本人も家族も老化への対応をまったく考えていないことにあきれ果てる」といわれました。 ■体の老化と家の老朽化は同時にやってくる 自分の老いを自覚させられたのは85歳の夏。体調を崩したのをきっかけに食べられなくなったのです。病院で診てもらうと低栄養といわれ、体力もかなり落ちていました。 前年に、家を建て替えたことも影響したのでしょう。築40年を過ぎた前の家はあちこちにガタがきていました。
調べてもらったら、「この家は丈夫にできているけれど、今度、大地震がきたらそのまま倒れて、隣の家を押しつぶしてしまうかも」とのこと。見渡せば、亡くなった連れ合いと私の蔵書が山積みになっていて、床の一部が抜けているし、確かに危険です。 こうして、84歳にして、家を建て替えることになりました。 それまでは、家は古いままにしておき、近くにある、食事のおいしい有料老人ホームに入ろうと思っていました。これまで一生懸命に働いてきたので、少しはぜいたくをしてもいいかなと。
でも、ホームの個室は狭いので、時々広々とした家に帰り、のんびりする。そんな暮らしを夢に描いていたのですが……。 蓄えていた老人ホームの入居金は建築費用に消え、ホーム暮らしの夢も泡となって消えました。体の老化と家の老朽化は、同時にやってくるものなのですね。 新しい家には、2階への階段をのぼれなくなったときに備えて、エレベーターをつけました。でも、いっさい使っていませんでした。エレベーターを使うほどでもないと、高をくくっていたのです。
ところが、88歳の夏にこのエレベーターに助けられることに。階段から転落して全身を打撲し、階段ののぼりおりが困難になったのです。幸い、どこにも傷はなく、よくぞ頭や顔をぶつけなかったものだと、みんなに感心されました。 高齢になると転びやすくなるのは仕方のないことです。けれど、もし1人暮らしだとしたら、危険性が高まります。家のなかで転んだとき、誰にも助けてもらえず、発見も遅れるのがその理由です。 浴槽でおぼれたりしたときも同じく、人に助けを求めたり、自分で救急車を呼んだりしづらくなります。取り返しがつかないことにならないために、何か施策を考えねばなりません。