コロナ禍のリスクコミュニケーション 菅首相には何が足りないのか 広報の専門家に聞く
●仕方なく発した?「緊急事態宣言」
コロナ禍における菅首相のリスクコミュニケーションについて、石川さんは「成功しているとは言えないんじゃないでしょうか」とシビアに評します。「リスクコミュニケーションでは『リスクに関する情報』の発信とともに『次に何をすべきか』を明確に示すことが重要です。菅首相の場合はリスク情報ばかりが目立ちますが、それだけだと国民は不安になります」。菅首相はワクチン接種など今後の方策も口にしていますが、「言葉としては言っていますし、原稿の中身は悪くない。それでも伝わらないのは表現力の問題」と断じます。 リスクコミュニケーションが巧みな人物の一例として挙げるのは、コロナの封じ込めに成功したことで知られるニュージーランドのアーダーン首相。「リーダーには喜怒哀楽がある程度あったほうが魅力が出るんです。その点、彼女は感情表現がとても上手で、温かい印象を与えることに成功しています。彼女だけでなく、アメリカのバイデン大統領など海外の首脳は皆、個人の魅力もアピール材料にしてトップに上りつめていくんですね」 ただ、石川さんは「菅首相はまったく思いを込めて語ることができない人、というわけでもないんです」とも。「昨年の総裁選でも同じように原稿を読んでいましたが、単なる棒読みではなく感情を乗せて言葉を発していたので、訴えたい内容や気持ちがよく伝わってきました」と分析します。 国民に訴えかける力を高めるために、菅首相は何をすべきなのでしょうか。「『男は泣くな』など感情を表に出さないように言われて育つからでしょうか、日本人男性は感情表現が苦手です。いまさらアーダーン首相のまねは難しいと思いますが、それでもコミュニケーションを改善すれば、若々しく、エネルギッシュで生き生きした雰囲気は出せると思います」とアドバイスする石川さんが、改善しやすいポイントとして挙げるのがアイコンタクトです。「記者会見では、ポイントポイントで顔を上げてアイコンタクトを取ること。これだけで眼力が出せます」 もっとも、年明け早々の「緊急事態宣言」発出時など、ここのところの菅首相のメッセージについては「たとえコミュニケーションの課題を改善したとしても、伝わらなさはあまり変わらなかったように思います」と見ます。 「今回の緊急事態宣言は『専門家や自治体が言っているから』と仕方なく発した感が強いように見えました。自分の思いがないから伝わらないんです。もしそうならば、さまざまな専門家の見解の中から自分が正しいと考える見解を選んで、『リーダーとしてこの意見を採用しますので、国民の皆さんついてきて下さい』と言えば良かったんじゃないでしょうか」 (取材・文:具志堅浩二)