「フランスでは日本のマンガが人気」というが、じつは意外と知られていない「その実態」
「フランスでは日本のマンガが人気だ」という話はよく聞くが、実際、フランスの出版市場のなかでコミックはどのくらいの規模で、そのうち日本マンガはどの程度の規模なのか。フランスの全国出版協会(Syndicat national de l’edition)の「出版統計2023・2024」"Les Chiffres de l’edition2023・2024"からフランスのコミック市場の特徴について見てみよう。 【マンガ】カナダ人が「日本のトンカツ」を食べて唖然…震えるほど感動して発した一言 実は2023年には日本マンガの販売部数が前年比17%も減ったというが……。
フランス出版市場は安定的に推移している
コミック市場の話に入る前にまずフランスの出版市場全体を概観しておくと、30億ユーロ(1ユーロ160円とすると約4800億円前後)でここ数年は比較的安定している。日本のように毎年紙の出版市場が落ち込んでいるというような状況にはない。 小売店のシェアとしては大型専門店(大型書店)28.4%、書店(大型ではない書店)23.7%、インターネット書店22.2%、ハイパー/スーパーマーケット18.1%(ハイパーマーケットは誰でも入れるコストコのような業態)、その他5.4%、通販/クラブ2.2%(「クラブ」は会員制のブッククラブのことだと思われる)。 日販の『出版物販売額の実態』を見ると、日本でもネット書店のシェアは20%程度なのでここは変わらないが、フランスではハイパー/スーパーマーケットのシェアが大きいのが日本とは異なる(もっとも、日本でも1970年代には大型スーパーやショッピングセンター内の書店が新興勢力として注目されたのだが)。
出版市場全体の約16%を占めるコミック市場、約6%を占めるマンガ市場
フランスの出版市場29億4500万ユーロ(1ユーロ160円とすると約4800億円)のなかでコミック市場は466.8百万ユーロ(出版市場全体の16%、約750億円弱)、マンガ市場は182百万ユーロ(同6%、約290億円)を占めている。日本のマンガ市場は電子も合わせて6937億円(出版科学研究所推計)だから、マンガだけでフランスの出版市場より大きいことになる。 バンドデシネ(BD)とマンガを含むフランスのコミック市場は2023年、金額ベースで4.3%、数量ベースで9.8%減少した。なお、この報告書では日本マンガ以外のコミックは北米産のグラフィックノベルにしろ韓国ウェブトゥーンの書籍版にしろ、コミック市場内での内訳の詳細は書かれていない(おそらくBDかマンガのどちらかに含めていると思われる)。 また、コミック市場のなかではポケット版(大判ではなく持ち運びしやすい形態。日本の新書判サイズより少しだけ大きめ)で刊行される割合が9.6%だが、マンガは主にこの形態だという。BDも子ども向けを中心にポケット版のものもあり、判型でBDかマンガかを分類しているわけではなさそうだ。 出版市場全体でマンガが占める割合は、タイトル数で5%、発行部数で11%。マンガはコミック市場の39%を占め、ここ数年は記録的な成長を続けてきた。だが2023年には新刊点数は維持されたものの発行部数や重版部数が大幅に減少したことで数量ベースで17%減少した。 タイトルでは『ONE PIECE』『NARUTO』などが引きつづき定番作品として人気であり、また『SPY×FAMILY』なども新たな人気作として地位を確立している、とある。 大幅減の理由の詳細はわからないが、SNEが発表しているほかの記事も参照すると、フランス政府が若者に文化や芸術に触れてもらうために創設した「カルチャーパス」が導入された当初はマンガが熱狂的に買われたものの、今日では購入先が多様化したからではないかと推察されている (18歳以上の若い読者がパスを通じてオーディオブックを購入している、といった記述もある)。 「2023年に激減したのがおかしいのではなくて、その前の数年間が調子がよすぎて異常だった」という落ち着いた意見が見られ、日本や韓国のように毎年上がった下がったで大騒ぎしない感じは個人的には好感である。 興味深いことに、パスを使って本を買った若者は、けっこうな割合でその後も書店に通い続けているという。日本でも書店振興政策としてカルチャーパスをやればいいのではないか。