「ライブ×配信」に活路はあるか──“ハコの生態系”を枯らさないための取り組み【#コロナとどう暮らす】
コロナ禍に際して政府が打ち出す経済的な支援策に対し、音楽従事者から反発の声が多く上がってきた。「(イベント自粛の見返りとして)損失を税金で補填することは難しい」と首相が表明した(3月28日の記者会見)ことへの不満だけではない。企業に雇用されているか、さもなければ事業主、といった働き方からこぼれる人たちが音楽の世界にはたくさんいる。 「政治家たちがあれだけ簡単にライブやコンサートを自粛させたのは、産業としての広がりがどれだけあるかが理解されていなかったからでしょう。一つのライブの裏でどれぐらいの人が動いているのか、何カ月かけて準備しているのか。また、ライブハウスでも、ハコの大小や、オーナーの考え方によってもバラバラなわけです。その下にはアルバイトで働いている若い子たちがいるだろうし、音響さんも照明さんもミュージシャンも、いろんな人が関わって、全体としてエコシステムみたいなものが成り立っているわけだから」 毛利さんは、所属する日本ポピュラー音楽学会(JASPM)をベースに、他の研究者たちと連携しながら、コロナ禍によってポピュラー音楽に何が起こっているのかを調査・記録するプロジェクトを立ち上げた。 とっかかりとして、4月9~16日、「音楽に仕事として関わる個人」を対象にオンラインで緊急アンケートを実施した。 調査を実施した宮坂遼太郎さん(東京芸術大学大学院)によれば、有効回答数895件のうち、約100人がミュージシャン。他に、作曲家・編曲家、サウンドエンジニア、音響、舞台照明、音楽ライター、音大講師、レコード会社員、レコーディングスタジオ経営、調律師、ピアノ教室主宰など、さまざまな職種の人から回答が寄せられた。 「3、4、5月の仕事の数はどのくらい影響を受けたか」という質問に、86.6%が「7割以上なくなった」と答え、「全てなくなった」人は全体の4割を超えた。
同じくJASPMの会員である日高良祐さん(東京都立大学助教)は、クラブやDJバーの店長など、休業を余儀なくされたハコの経営者に詳細な聞き取りを実施している。日高さんはこう話す。 「ぼくが驚いたのは、ハコのオーナーたちが、『バイトの子が困っている』とか、『大家さんが大変だ』といったように、周辺の人たちをケアしようとするような物言いをしていることです。片方が死んだらもう片方も死んでしまうという認識があり、関係性を保つ努力をしている。さきほどエコシステムという言葉がありましたが、“ハコの生態系”ともいえるような相互認識のあり方がうかがえます」 たとえば、あるレコーディングスタジオが廃業したとして、出ていかれて困るのは大家さんだったりする。代わりの店子がすぐに見つかるとは思えないからだ。毛利さんは“ハコの生態系”をこう分析する。 「ライブハウスやクラブに関していえば、従業員というよりは、コミュニティーのメンバーだという意識のほうが強いんだと思います。むしろ友達とか親戚とかに近くて、そこで成立しているビジネスを把握する言葉がない。少なくとも行政的には」 「ライブハウスカルチャーはこの20年ほどでものすごく変わりました。パッケージが売れなくなり、ライブやフェスが隆盛して、売り上げ規模も逆転しています。一方で、そういった現状に合わせた制度化はほとんど進まず、相変わらずレコード会社が業界を代弁しているような状態です。その対応をしてこなかったことが、今回の危機で“ツケ”となっているのではないでしょうか。研究者としては、図らずも露呈した複雑な産業構造を、ちゃんと見せていかないといけないと思っています」