「ライブ×配信」に活路はあるか──“ハコの生態系”を枯らさないための取り組み【#コロナとどう暮らす】
大内さん自身、ライブハウスの休業に伴って、3月から5月の裏方仕事がすべてキャンセルになっていた。4月中旬から予定していた所属するバンドのツアーも、3月中旬に延期が決まった。 大内さんはミュージシャン仲間から「配信をしたいけどやり方がわからない」「初期投資のハードルが高い」といった声を多く聞いていた。そもそも、駆け出しのインディーズバンドがワンマンでライブ配信をしたところで、たくさんの人に見てもらえるとは思えない。 「自分もいま苦しい側にいるので、そういった人たちが何を求めているかはわかります。オンラインライブハウスなら、こんな状況でも制作マンはイベントが作れるし、簡単なライブもできる。持ち時間が20分でチケットバックがちゃんと得られるシステムなら、アーティストの活動の手助けになると思いました」 矢口さんは、大内さんを誘った理由を、「インディーズを守りたいというコンセプトに合っていた。そのうえ制作もできる人は貴重なんです」と話す。 オンラインライブの開催で重要なのがプラットフォームだ。投げ銭系プラットフォームも検討したが、「チケットを売る」スタイルにこだわった。最終的に、知人の勧めで電子チケット販売プラットフォームである「ZAIKO」を選んだ。多言語多通貨対応のボーダーレスな有料ライブ配信機能を備え、出演者名ごとのチケットを設定できることが決め手となった。 矢口さんたちは、5月17日に最初の「オンラインライブハウス」を配信。初回は大内さんをホストとして、ゆかりのアーティストを訪ね歩くという趣向で、14人が出演した。チケットの売れ行きは予想をかなり上回ったという。
活動実態と支援のミスマッチ
大内さんは、事務所に所属していないフリーのミュージシャンだが、いくつかの仕事を掛け持ちして生計を立てている。ミュージシャンとして事業化しているわけではないため、中小法人や個人事業主向け「持続化給付金」の対象からははずれる。大内さんは「フリーターのようなものですよ」と苦笑するが、日本では、大内さんのような活動の仕方をするミュージシャンは珍しくない。 ポピュラー音楽を研究する毛利嘉孝さん(東京芸術大学大学院教授)はこう言う。 「多くの人にとって音楽は、職業であって職業でないみたいなところがあるんだと思うんですよ。音楽だけで食べている人はほんの一握りで、9割以上は他の仕事やアルバイトをしながら活動している。日本の音楽、特にバンド系の文化がこれだけ盛んなのは、1990年代にフリーターという身分が市民権を得て、定職に就かなくてもバンドマンをやっていける仕組みができたことによります。必ずしも大きな市場のないフリージャズや実験音楽の領域では、世界的に有名なミュージシャンでも、食えないからバイトをしているという人は少なくありません」