「ライブ×配信」に活路はあるか──“ハコの生態系”を枯らさないための取り組み【#コロナとどう暮らす】
矢口さんの場合、1月から危機感を持ち、政府の施策をチェックしていた。地元金融機関や、加盟する企業支援団体のアドバイスを受けながら、3月には中小企業向けの融資を申し込んだ。同時に、当座の生活費を稼ぐためにレコードのコレクションを売りに出したり、知人の店でアルバイトをしたりもした。本業に専念するために縮小していたライターの仕事も復活させた。 「それらに加えて、専門学校の講師の収入と持続化給付金で、なんとか今年いっぱいは食えるという道筋が立った。そのあとですね、うちにできることってなんだろうと考えられるようになったのは」 もともと、矢口さんがいまの仕事を本業に選んだのは、こんな思いからだった。 「メジャーなアーティストさんはもちろんですが、それ以上にインディーズのアーティストさんを大事にしたいと思っていて。音楽の底を支えているのは、インディーズのみなさんなんですよね。日本では大きなフェスに出られなくても、海外なら出られることもある。有名なアーティストと共演することもできるし、お客さんがいる場所でパフォーマンスできて、奇跡を起こすこともある。それを実現したいと思っているんです」
チケットバック可能なオンライン配信に挑戦
「今年いっぱいは食える」というめどが立ったあと、矢口さんは「オンラインライブハウス」を構想し始めた。ライブハウスでは、複数のバンドが出演するイベント形式の対バンライブが多い。客はお目当てのバンドやアーティストを指名してチケットを買う。アーティストは、指名で売れた分からチケットバックを受け取る。 すでに有料ライブ配信に取り組むアーティストは現れていたが、ワンマンライブ中心だった。チケットを出演者の誰から買うか指定できれば、親しみのあるシステムをオンラインに移行できるのではないか。そう考えた矢口さんは、ミュージシャンの大内ライダーさん(35)に声をかけた。大内さんは過去にメジャーデビューした経歴を持ち、ベーシストとしていくつかのインディーズバンドで演奏するほか、都内のライブ会場でホール管理業務に携わっている。大内さんは言う。 「いろんなライブハウスがクラウドファンディングをやっていて、ぼくもけっこうあちこち支援していますけど、制作マンやブッカー(ライブイベントに出演者をブッキングする人)は、稼ぐ方法が断たれているんですよね」