集中豪雨・巨大地震……相次ぐ災害 被災後に自分の心を守るには
「出来事の悪夢繰り返し見る」などの症状はPTSDの可能性も考え専門家に相談を
急性ストレス障害のレベルでも通常の状態に回復する人は多いのですが、命の危険を覚える事態から1か月以上経過しても神経の高ぶりが治まらず、ささいなことにも過敏になり、刺激されやすい過覚醒と呼ばれる状態が続く場合もあります。その現場を繰り返し思い出して、あたかも再び体験しているような状態になります。このような状態はPTSD(心的外傷後ストレス障害)と呼ばれて、専門的な診断と治療が必要になります。3か月以内に半分の人は完全に回復しますが、それ以降も症状が続く方もいます。一部は慢性化して日常生活や仕事への支障が続くケースもあります。 命を脅かされる体験後にPTSDの可能性を考え、専門家に相談する目安としては、「恐ろしい出来事が再び起こっていると感じる」、「出来事の悪夢を繰り返し見る」、反対に「出来事を思い出せない」、「誰も信用できないと感じる」、「少しの物音に大きく反応したり、過度に警戒する」、普段は穏やかなのに「すぐにいら立ったり、怒ったりする」といったことが、日常に支障が出るレベルの睡眠障害と並ぶポイントとなります。 社会的環境や日常生活の激変、支援や資源の減少、生活を支えるインフラの破壊、物流の停止、医療アクセスへの悪影響、公共交通機関の混乱が続く場合には、間接的に心身の症状を悪化させ、専門家への相談にも影響する可能性があります。
命を脅かす事態を日々の暮らしで想定しておくことが肝要
日頃から熱心に職務を遂行され、業績を上げるために奮闘されている読者の皆さんには、命を脅かす事態は想像し難いことかもしれません。 惨事の体験から心的外傷を負うということは、平和で安全な我々の日常生活の中では、悲しい事態、あってはならない状況と捉えられがちと思います。しかし、リテラシーを強化するためには、心的外傷や急性ストレス反応を客観的に理解しておくほうが有益であると私は考えています。講演や研修で解説する際には、命を脅かす事態を経た人間(ヒト)は単なる哺乳動物としての反応を本能的に引き起こすと説明しています。 例えば、人間を捕食しようとするヒグマ等の野生動物に襲われそうになった場合、叫び声を上げ、思考が停止し、気が遠くなるような感覚と共に逃げ出そうとするか、混乱するか、その場でフリーズする状態になるでしょう。これらは理性に基づく対処とはいえません。 何とか、生き延びた後には、その情景が強く記憶に刻まれますが、以降は命の危険を感じたエリアには近づかない、それを周囲の人に知らしめる行動をとるはずです。これらはヒトが、太古の昔から集団で生き延びるには効果的な反応だったと読み解くことができます。 命を脅かす事態が生じないことを祈りつつ、そうした事態が発生し、ご自身が経験した場合にどうなるのかを想定しておくことが健康を守るリテラシーとして役立ちます。