集中豪雨・巨大地震……相次ぐ災害 被災後に自分の心を守るには
日頃からご自身が生命を脅かされる状況を意識されているでしょうか。 日常生活、仕事と職場、あるいは社会経済全体をも脅かす地震、台風、豪雨、水害、竜巻等が頻発している今日この頃です。しかし実際には被災地域に職場、住居がない限り、報道でしか見聞きしない方が多いでしょう。ご家族、ご親族、ご友人等、大切な方々が被災することも確率的には高くはありません。 命の危険を感じる、そうした感覚を呼び覚まされる事態と心身の影響を知っておくことは大切な健康に関するリテラシーです。2011年3月の東日本大震災の折、公共の交通機関がストップして帰宅困難となり、相当な距離を初めて徒歩で帰宅した方、東京電力福島第一原子力発電所の事故後に放射線の影響を心配した方は、命を脅かす事態を想像しやすいかもしれないと思います。 南海トラフ地震の発生に国民全体が注目した今夏以降、ご自身や大切な方々の心身の健康を守るためにこそ、危機的な状況を経た心身の影響を理解し、準備を心掛けていくことが望ましいと考えられます。
混乱・怒りに続き不眠・頭痛も 惨事の心への影響大きく
日常的には経験することがない、命の危険を感じる脅威となる破局的な性質を持った出来事は、重い心の傷、いわゆるトラウマ(心的外傷)を引き起こすとされます。そうした出来事の経験としては、ご自身が直接的に経験するケース、他の人が経験する様子を目撃するケース、家族や親族、親しい友人の方の経験を聞くケース等があるとされています。 心的外傷を負う経験後には、数日間、心身と行動の面に反応が起きますが、これを急性ストレス反応と呼びます。例えば、ぼうぜんとしてしまい、何がどうなっているのか、どう考えればよいのか、分からなくなることがあります。直面した現実を受け入れられない心境、悲嘆、ひどい落ち込み、感情がまひした状態から混乱した心境となります。強い怒り、いら立ち、翻って自分を責め、現実的な感覚が失われるケースもあります。 こうした感情や思考の変化と並行して認知や感覚も変わります。いつ、どこで、何をしているかが分からなくなったり、注意力が続かず集中困難になり、過度な緊張状態、決断ができなくなったり、悪夢を見て、その現場の情景を度々思い出したりすることもあります。 一方で不眠、頭痛、腹痛、寒気や悪寒、吐き気と嘔吐(おうと)、めまい、胸の痛み、動悸(どうき)、発汗、息苦しさ等の身体の症状も生じます。行動面では、睡眠時間のリズムが崩れ、食事が取れないか、過食や過度な飲酒に傾くこともあり、日常生活の動作、行動ができなくなり、次第に社会生活を離れて引き籠もってしまうケースもあります。 多くの人はこうした反応は数日で治まりますが、中には1週間、2週間と続くことがあります。前者を急性ストレス反応、後者を急性ストレス障害と分けることもあります。健康を守るためのリテラシーとして、こうした変化が生じるのは人間としての当然の反応だと理解しておくことが重要です。