なぜ38歳ドネアは4回鮮烈TKO勝利で復活のWBC王座獲得に成功したのか…「井上尚弥と再戦するために勝ちたかった」
サウスポースタイルのウバーリは、1、2ラウンドとスピードを生かして軽いパンチを当てると同時にステップバックでさっと離れて安全圏の距離をキープ。左右に細かく動きドネアを翻弄していた。2019年11月の王座統一戦で、暫定王者だった井上拓真(大橋)をポイントで封じ込めた嫌らしいスピードと出入りの技術である。 だが、ドネアは、深入りせず、その打ち終わりにパンチを合わせながら、ずっと左フックのカウンターチャンス探っていた。戦略と一撃必殺の精密なタイミング。そしてカミソリのようなパンチのキレ。井上の右目を眼窩底骨折にまで追い込んだ“伝家の宝刀”の左フックを携えて、ドネアが鮮やかに蘇ったのである。 リング上のインタビュー。 インタビュアーから43歳でスーパーボウルを制したNFLパッカニアーズのQBトム・ブレイディと比較され「あなたがビック・ダルチニアン(豪州)から初めて世界タイトル(IBF世界フライ級王座)を獲得したのは14年前ですよ?凄いですね?」と聞かれると「人間の体は鍛えてケアを続ければいつまでも強くいられるんだ」と答えた。 そしてドネアは日本にいるライバルの名前を出した。 「私には成長する能力がある。年齢は重要ではない。精神的にどれだけ強くいられるか、そこが大事なんだ。井上には勝てなかったが、また井上と戦いたいと思っていた。今日の試合に勝ちたかったのは、そのためだ。私の目標である無敵の世界チャンプになるためにベルトを取った。次にもう一度、井上と戦いたい」 当初、ウバーリへのタイトル挑戦は、昨年行われる予定だったが、1度目は、自身の新型コロナの陽性反応で流れ、2度目はウバーリが感染して流れた。1度目に流れた際には「偽陽性」を訴えるなどしていたが、それほどまでに、このタイトルに固執したのは井上との再戦の資格を得るためだった。井上は4団体統一を目標に掲げており、ドネアがWBCのベルトを巻けば避けられない相手となるからである。 井上もドネアのTKO勝利に対してすぐにツイッターで反応した。 「ドネア強ぇ!」 試合直前には、「割れるねぇ。。 俺はウバーリの僅差判定勝ち。ただドネアの一発にも期待!」と予想していたが、ただ…の部分が見事に的中した。 井上は6月19日(日本時間20日)に米国ラスベガスでIBFの指名挑戦者であるマイケル・ダスマリナス(28、フィリピン)との防衛戦が決まっている。世界的には無名で、拓真のスパーリングパートナーとして来日経験のあるサウスポーとの指名試合をあえて受けたのはIBFのベルトを保持して4団体統一を達成するためだ。 井上は「この試合がクリアできたら年内にもう1試合(3団体統一戦)やりたい。うまくいけば来年の春に4団体統一戦。それくらいの計画は立てていきたい」と明かしていた。 防衛に成功すると3つ目のベルトのターゲットは、8月14日(日本時間15日)に米国で行われるWBO世界同級王者、ジョンリエル・カシメロ(32、フィリピン)とWBA世界同級正規王者、ギジェルモ・リゴンドー(40、キューバ)戦の勝者。そして、来春にも4団体統一をかけてドネアとの再戦を受けて立つことになるが、もしカシメロ対リゴンドーの勝者との対戦交渉が難航すれば、先にドネアとの再戦が実現する可能性もあるだろう。 ドネアにとってはリベンジ。井上にとっても「完全KO決着」のモチベーションがある。”レジェンド”ドネアの復活で井上を中心に回っている世界のバンタム戦戦線がドラマ性を帯びてきた。