「なぜ土葬はダメ?」 多文化共生を問われる日本社会
日本は「火葬大国」
1950年代まで日本の火葬率は約50%で、農村部を中心に土葬の風習も残っていた。しかし、現在の日本は世界有数の火葬大国ともいえる状況で、一般的な人ならば「土葬」が葬送の選択肢として頭に浮かぶことはないだろう。厚生労働省が発表した衛生行政報告例によると、2022年度中に日本で行われた葬送の総数は162万8048件。そのうち99.97%にあたる162万7558件が火葬で、土葬はわずか0.03%(490件)しかない。 葬送の方法と信仰が必ずしも密接な関係にはない一般的な日本人とは異なり、ムスリムにとって土葬は信仰に直結する問題である。「アブラハムの宗教」とも呼ばれるユダヤ教、キリスト教、イスラム教では、死後の復活への信仰などを理由に土葬を希望する信者がいる。火葬を受け入れる信者も多いキリスト教徒に比べると、ムスリムは土葬を強く望む人の割合が多い。 日本の墓地埋葬法は土葬を禁じていない。だが、火葬が一般的になった今、土葬のできる墓地は極端に少ない。そのため、信仰にのっとった形で遺体を埋葬できる墓地の確保は、在日ムスリムにとって共通の重要課題といえる。 日本で墓地を経営できるのは、地方公共団体か公益法人、宗教法人などに限られているが、宗教法人格を取得している別府ムスリム協会は条件を満たしている。法令と役所の指示に従い、一部の住民から「合意」を取り付けても、別の住民から「反対の声」が次々と上がり、建設にたどり着けないのはなぜなのか。
土葬へ「3つの抵抗感」
新規に土葬墓地建設を目指したが、住民の強い反発により頓挫するという経験をした在日ムスリムは、別府ムスリム協会だけではない。筆者が取材した茨城県桜川市の事例にも、別府との類似点があった。 桜川市の条例では当時、墓地建設に伴う住民説明会の開催を義務付けていなかった。ムスリムに協力していた仏教寺院が、許認可権限者である市当局と直接交渉し、2023年9月に墓地造成の許可を得ていた。しかし、計画を知った住民から反対の声が上がり、結局はムスリム側の事業者が許可の取り下げを市に願い出て、24年3月に計画が撤回された。 合法的な手続きを済ませても、地元住民から強い反発に遭い、計画が頓挫する―。2件のケースには、在日ムスリムが直面する問題が凝縮されている。地域住民が問題視するポイントは概ね以下の3つに大別できる。 1.現在の日本では珍しくなった土葬に対する公衆衛生面での不安 2.なじみの薄いイスラム教に対する漠然とした懸念 3.計画の手続き過程で住民が感じた疎外感 繰り返すが、法的な手続きだけを見れば、別府市、桜川市、どちらのケースも問題はない。ムスリム側が「法令以上の努力をしているのに、なぜ建設が許されないのか」と怒りを覚えるのも理解できる。だが、地元住民が反対運動を始めたら、建設にたどり着くのは容易ではないという日本社会の現実も忘れてはならないだろう。