「変わってるふり」では敵わない、同期の「頭のネジ」の飛び具合……デビューから「15年」が経ってもかわらない「絆」
送られてくるのは新刊だけではない!?
──お互いの新刊を送り合うこともあるのでしょうか。 綾崎:僕は新刊が出ると必ずまどさんにもお送りしています。ただ、なんというか、僕のほうが刊行ペースが早いので、一方的に送り続けるかたちになってしまっていて……。 野﨑:僕は本を出していませんから。 綾崎:そういうつもりで言ったのではなくて! 送る本がない罪悪感からなのか、まどさんからは毎回謎の写真が送られてきます。 野﨑:なにかしらを送り返さなければと……。それに僕としては綾崎さんが理想の作家ですから。綾崎さんはしっかり本を書いて小説家をしている、とてもいいなあと新作を受け取りながら、僕は毎日セミの抜け殻をレゴブロックでつくっている。 綾崎:まどさんは他にもお仕事をされているので仕方ないですよ。でも、送られてくる謎のメッセージが何年か経って理解できることもあるんです。 ──と、いうと。 綾崎:二〇一八年に講談社タイガさんが伊勢丹でイベントを開かれたとき、まどさんから『伊勢丹に行きたかったけど労働で悩んでいるので諦めます』と送られてきました。僕は『労働がんばって!』と返したんですが、するとまどさんから『働くことの意味』の背表紙を撮った写真が送られてきて。そんなに仕事で悩んでるのか……と引っかかっていました。 野﨑:実際、労働について考えていました。 綾崎:そしたら二〇二〇年に「仕事」をテーマにした『タイタン』が刊行されて、あれはこのときの参考資料だったのかと思わず膝を打ちました。 ──伏線回収ですね。 綾崎:まどさんはお会いすると礼儀正しいし、社会常識も備わっているひとなんです。ただ、話している内容が常にわからなくて、頭のネジが飛んでいる。ちょっと変わったひとのふりをしている自分が恥ずかしくなってきます。 野﨑:褒められているのかディスられているのか……。 後編では野﨑さん綾崎さんがお互いの新刊、『小説』『冷たい恋と雪の密室』について存分に語り合います! 【後編】ともにデビューした二人の小説家の「友情」がきりひらいていく、小説の「美しさ」と「楽しさ」はこちら 野﨑まど(のざき・まど) 1979年、東京都生まれ。麻布大学獣医学部卒業。2009年『[映]アムリタ』で第16回電撃小説大賞「メディアワークス文庫賞」の最初の受賞者となりデビュー。2013年に刊行された『know』で第34回日本SF大賞・第7回大学読書人大賞それぞれの候補、2021年『タイタン』で第42回吉川英治文学新人賞候補となる。2017年テレビアニメーション「正解するカド」でシリーズ構成と脚本を、2019年公開の劇場アニメーション『HELLO WORLD』で脚本を務める。「バビロン」シリーズは2019年よりアニメが放送された。 綾崎 隼(あやさき・しゅん) 1981年、新潟県生まれ。2009年に第16回電撃小説大賞選考委員奨励賞を受賞し、『蒼空時雨』で翌年デビュー。著書に「花鳥風月」シリーズ、「ノーブルチルドレン」シリーズ、『それを世界と言うんだね』『この銀盤を君と跳ぶ』など多数。2021年刊行の『死にたがりの君に贈る物語』で小説紹介クリエイター・けんごが選ぶ「ベストオブけんご大賞」を受賞し大きな話題を呼ぶ。恋愛とミステリを組み合わせた独自の作風で、10代20代の若者を中心に熱狂的な支持を得ている。
あわい ゆき(書評家・ライター)