新定番はエビチリならぬ“エビミソ”。新富町の人気中国料理店がリニューアル
見ておわかりのように、肉料理は最後の梅香豚を使った酢豚ぐらいのもので、コース料理の大半が魚介メニュー。中でも、湯浅シェフの自信作が、コースの定番でもある車海老の一品。
「最初は、車海老でチリソースを作っていたんです。それはそれで好評でしたが、結局、そのおいしさってタレの味だよなぁ」と思った湯浅シェフ。せっかくなら、車海老本来の味をもっと生かしたいと考え、車海老は、紹興酒を加えたスープでボイル。チリソースの代わりに、車海老の海老味噌を活用することにした。
といっても、海老味噌をただ添えるのではなく、にんにく、生姜、長ネギのみじん切りと共に炒め、塩と紹興酒で調味。シンプルな仕上がりながら、ネギと生姜の薬味が、茹でただけの車海老を中華に引き寄せ、その品の良い甘みを邪魔することなく引き立てている。そこには「奇を衒うことなく、また、中華の枠にも囚われず、今の思いをシンプルにお皿に表現したい」という湯浅シェフの思いが込められている。
一方魚の扱いにも、中華の枠に囚われない湯浅シェフならではのアプローチがなされている。例えば、真ハタ。通常、“清蒸魚”といえば広東料理がお馴染みだが、その場合、鮮度の良い魚が良しとされる。あの「福臨門魚翅海鮮酒家」では、厨房内の水槽に活けの魚を置いていたほどだ。
しかし、湯浅シェフは「あえて5日間ほど寝かせてから使っている」とのこと。それというのも、寝かせることでハタの身を落ちつかせ、うまみを凝縮させた方が魚本来の味をより引き出せると考えたからだ。タレは、真ハタの骨でとっただし汁に紹興酒や醤油を合わせたもの。アツアツに熱した太白胡麻油をかけた瞬間のジュワッという快音、立ち上る香気に、胃袋がますます開いていくようだ。
魚介への思い入れも深いが、湯浅シェフが最も気合いを入れているのは、やはり“フカヒレ”。その魅力に目覚めたのは「筑紫樓」時代だそうで「フカヒレは、中華の王道とも言うべき乾貨(中国語で乾物の意)の逸品。手間をかけた分だけ返ってくる素材でもありますね」。そう話しながら見せてくれたのは、見事な原ビレ。最近は既に処理済みのフカヒレを用いる店が多い中、湯浅シェフは、原ビレからきちんと戻している。