必要なのはわかっているけど、荷物が重くなるのは嫌…「ザックに入れる食べ物」の量が瞬時にわかる計算式
水分とエネルギー補給の具体例
脱水量とエネルギー消費量の計算式による、実際の計算例は『登山と身体の科学』にいくつかの例を載せましたので、そちらをご覧いただくとして、ここでは具体的な補給に、計算をどう生かすか、そのポイントを述べてみます。 次に、具体的な補給の仕方を考えてみましょう。行動中に失われる水分やエネルギーの全量を補給してもよいのですが、持っていく荷物の重さも増えます。荷物の重さを抑えたければ、失われる量の7~8割を補給し、あとは体内の貯蓄分で補うようにすれば、身体の機能を落とさずに行動できます。 ただし、補給量を5割程度まで減らしてしまうと疲労しやすくなります。 手順は次のとおりです。まず、その日のコースを歩いた場合の脱水量とエネルギー消費量を、「行動中と生活中のエネルギーと水分の消費量」のA式で計算します。次にその7~8割の値を割り出し、1日の補給量の目標値とします。そして、朝食と何回かの行動食とに分割して、小刻みに補給していくのです。
重要な朝食と、昼食の考え方
出発前に摂る朝食は重要です。これを抜いてしまうと、2時間後くらいには疲労が起こってきます。1日の行動で消費するたくさんの水分とエネルギーの一部を、朝食で前倒しに補充しておくという意識が必要です。 行動中には、朝食で摂った分量を差し引いたうえで、小分けにして補給します。水分は最低でも1時間に1回(真夏は30分に1回)が目安です。エネルギーは1~2時間に1回の補給を目安とします。おにぎり、菓子パン、ビスケットなどデンプン質の食物を基本として、甘いもの(アメ、果汁グミ、キャラメルなど)を補助的に加えてもよいでしょう。 昼休みに少し長く休んで、やや多めに補給するのはかまいませんが、あまりたくさん飲んだり食べたりすることは避けます。消化吸収のために胃腸に血液を奪われて、運動を行う筋への血液配分が減り、運動能力が落ちてしまうからです。昼食ではなく「行動食」という表現を使って、昼時だけに限らず、行動中には定期的に補給するもの、という意識を持つとよいでしょう。 *次回は、キツイ上りでもラクになるおすすめの「歩き方と呼吸の仕方」をご紹介しましょう。公開予定は5月24日(金)予定です。 登山と身体の科学 運動生理学から見た合理的な登山術 安全に楽しく登山をするために、運動生理学の見地から、疲れにくい歩き方、栄養補給の方法、日常でのトレーニング方法、デジタル機器やIT機器の効果的な使い方などをわかりやすく解説。豊富なコラムで、楽しみながら知識が身につけられます!
山本 正嘉(鹿屋体育大学名誉教授)