必要なのはわかっているけど、荷物が重くなるのは嫌…「ザックに入れる食べ物」の量が瞬時にわかる計算式
炭水化物の不足が起こすトラブル
炭水化物の不足によるトラブルについても同様です。図「朝食の有無と運動能力との関係」で見たように、エネルギー切れは筋の疲労に直結します。また脳神経系の働きも低下させるので、バランス能力や敏捷性が低下して、転びやすくなったり、とっさの対応も鈍くなります。また、大脳が司っている精神的な機能もすべて低下します。具体的には、思考力、判断力、注意力などが低下したり、「頑張ろう」といった意志の力も低下してしまうのです。 炭水化物の補給が不足して起こるトラブル 筋を活動させるエネルギーが不足し、疲労が起こる脳神経系の活動能力も低下し、バランス能力や敏捷性などが低下する上と同じ理由で、思考力、判断力、意志力などの精神的な機能も低下する熱産生の能力が低下し、低体温症にかかりやすくなる炭水化物の代替エネルギーとして、筋や内臓のタンパク質が分解されてしまう分解されたタンパク質から老廃物が多量に生じ、腎臓に負担をかけるその結果として、むくみの原因にもなる さらに、エネルギー源の不足を補おうとして、筋や内臓のタンパク質を分解して燃やすため、せっかく身につけた身体の組織を壊してしまいます。そして、タンパク質を燃やした後には窒素化合物(老廃物)が多量に生じるので、それを処理する腎臓にも余計な負担をかけ、その影響でむくみも起こりやすくなります。身体に悪いことが連鎖的に起こってくるのです。
脱水量とエネルギー消費量を求める式
ここまで見てきたように、水分やエネルギーが足りない状態で運動をすると、さまざまなトラブルに見舞われます。特に、長時間の登山ではこれらの消費量も莫大なものになるので、補給の役割は重要です。8時間の登山コースを歩いた場合のエネルギー消費量は、市民マラソンで42キロのコースを、6時間程度でゆっくり走ったときとほぼ同じになるのです。 山の中では、水や食料が足りなくなっても、すぐには手に入りません。必要な量をあらかじめ用意して、持っていくことが必要です。そこで以下に、登山の内容に応じてどれくらいの量を準備すればよいのか、またどのように補給すればよいのかを考えてみます。 まず、登山中の脱水量とエネルギー消費量を計算する式を紹介します。登山道の様相は、コースによって千差万別ですが、ある条件のもとでは法則性も成り立ちます。「行動中と生活中のエネルギーと水分の消費量」のA式はそれを示したもので、小休止も含めた行動中の脱水量とエネルギー消費量は、「体重×行動時間×5」という計算式で、おおよその値が求まります。単位は、前者ではml、後者ではkcalです。 行動中と生活中のエネルギーと水分の消費量 (山本、2016) 行動時間は、標準コースタイム*を用いる。A式での体重とは、バックパック等の荷物の重さは含めないで考える *標準コースタイムの詳細については、『登山と身体の科学 運動生理学から見た合理的な登山術』第8章参照 A式:行動中 エネルギー消費量(kcal) = 体重(kg)×行動時間(h)×5脱水量 (ml) = 体重(kg)×行動時間(h)×5 B式:生活中 エネルギー消費量(kcal) = 体重(kg)×生活時間(h)×1脱水量 (ml) = 体重(kg)×生活時間(h)×1 この式が成立する条件とは、歩きやすい登山道、軽装備(体重の10%以下)、著名なヤマップ社の登山アプリで設定されている標準タイムなどの標準的なコースタイムで歩く、1時間に1回の小休止(5~10分)を入れる、春や秋のように上りで少し汗をかく程度、を想定しています。 つまり、この式で求まる値は、最も快適な条件下で登山をした場合の下限値だと考えてください。急ぎ足で歩いたり、荷物が重かったり、悪路(雪道、ぬかるみ、 漕ぎなど)では、消費量はもっと増えることになります。 なお、山小屋やテント内で生活しているときには、「体重×生活時間×1」というB式が成り立ちます(これも条件がよいときの下限値です)。この2つの式を使えば、泊まりがけの山行でも1日分の水分消費量やエネルギー消費量の計算ができます。