「在日米軍撤退」「核保有容認」示唆 トランプ氏発言をどう受け止めるか?
支持層に向けた選挙用の発言?
もっとも、選挙中のこうした発言は若干差し引いて考える必要があるのも確かだ。 以前述べたように、「トランプ旋風」は米国におけるミドルクラスの先細りと密接に絡んだ現象である。ミドルクラスの縮小は、元来、国内的には排他主義的傾向、対外的には孤立主義的傾向と結びつきやすい。 現に、トランプ氏は「米国はとても強く豊かな国だったが、今は貧しい国だ。債務超過国だ」としたうえで「多額の費用をかけて米軍のプレゼンスを維持するのは割に合わない」と述べ、国内の再建を優先する姿勢を繰り返し強調している。 とりわけ、同氏の中核的な支持基盤である「プア・ホワイト」(白人の労働者層・貧困層)に対して、TPP(自由貿易)から在外米軍まで、すべて理不尽であり、彼らがその割りを食わされていると説くことはアピール材料になる。 トランプ氏は3月21日に国家安全保障に関するアドバイザー5人を発表したが、いずれも知名度は低い。共和党のジェフ・セッションズ上院議員(アラバマ州選出)が責任者に指名されているが、同氏は「外交通」というより「反不法移民の急先鋒」として知られる人物だ。メキシコとの国境に巨大な壁を設けることこそ国家安全保障の要であり、かつ有権者ウケするという読みなのだろうか。
ビジネス的ブラフ? 軌道修正も?
今後、アドバイザーが拡充され、同盟政策や東アジアの専門家が加われば、より現実的な姿勢に転ずる可能性はある。 また、仮に正式に共和党の候補者に指名された場合、本選では元国務長官である民主党のヒラリー・クリントン氏と論戦を交える公算が高い。その準備過程を通して軌道修正する可能性もある。幸い、これまでの履歴を見ていると、トランプ氏は自らの立場を改めることを「変節」ではなく「進化」だとして前向きに捉える傾向があるようだ。 さらに言えば、ビジネスの世界のタフな交渉に長けたトランプ氏にとって、「米軍撤退」や「核保有容認」を持ち出すことは、駐留経費負担釣り上げのための日韓に対するブラフ なのかもしれない。 ただ……このように差し引いて考えること自体、希望的観測に過ぎるのかもしれないし、そこにトランプ氏の、真意の読めない、先の読めない不気味さと危うさがある。
-------------------------------- ■渡辺靖(わたなべ・やすし) 1967年生まれ。1997年ハーバード大学より博士号(社会人類学)取得、2005年より現職。主著に『アフター・アメリカ』(慶應義塾大学出版会、サントリー学芸賞受賞)、『アメリカのジレンマ』(NHK出版)、『沈まぬアメリカ』(新潮社)など