「在日米軍撤退」「核保有容認」示唆 トランプ氏発言をどう受け止めるか?
過去70年から「コペルニクス的転換」
米国が第二次世界大戦後のリベラルな国際秩序の形成を主導したことは多言を要しない。その鍵となったのは世界規模における同盟関係の構築だ。 実は、米国の初代大統領ジョージ・ワシントンは海外との恒久的な軍事同盟の締結を戒めていた。欧州流の「旧世界」の紛争に巻き込まれたくなかったからである。 その米国が敢えて同盟関係の締結に踏み切ったのは、東西冷戦下の一九四七年(米州共同防衛条約=リオ協定)。以来、パキスタン以外に信頼できる同盟国を持たない中国とは対照的に、今日では50か国以上と同盟関係を結んでいる。米兵は世界の4分の3以上の国々に駐留し、米軍基地は海外の約700か所に存在している。 トランプ氏は北大西洋条約機構(NATO)についても関係見直しを明言しているが、まさに過去70年の米国の外交・安保政策のコペルニクス的転換と言う他ない。
東アジアで「核競争」のリスク
日米同盟に関して言えば、確かに、ベトナム戦争や冷戦の終結後、その「漂流」が危惧された時期はあったものの、全面的な米軍撤退が米側から示唆されたことはない。 戦後日本は米国の「核の傘」に入ることで、防衛費を低く抑えたまま「平和国家」として歩み、経済成長や社会発展に注力することが出来た。 米国にとっても、民主主義国家であり、経済・技術大国であり、一億人以上の人口規模を有する先進国である日本との同盟関係は重要だ。世界の成長センターでありながら、地政学的緊張の続くアジア太平洋地域における平和と安定の「礎石」であるとの認識は、民主党・共和党の垣根を超え、広く共有されている。 ましてや、ロシアや中国、北朝鮮が核を保有したまま米軍が撤退すれば、日韓の一部から核保有論が上がっても不思議ではない。東アジアにおける核競争や紛争が米国の国益を損ねることは自明だ。 経済コストや軍事リスクが格段に高まるだけではなく、リベラルな国際秩序そのものが崩壊しかねないからだ。ひいては中東情勢にも影響を与えかねない。トランプ氏はISに対して核兵器使用の可能性を排除しない考えを示しているが、外交・安保政策のプロにとって同氏のこうした世界観はまさに「悪夢」であろう。 トランプ氏は「ワシントン」、すなわちプロの政治家(とその周辺)を仮想敵とすることで有権者の人気を博しているが、外交のプロすらも仮想敵としているのだろうか。