科学は日本の競馬を切り開く重要なピース JRA理事長の研究発表会出席がその浸透の表れであってほしい【コラム】
◇中央競馬記者コラム「ターフビジョン」 「競走馬に関する調査研究発表会」(通称・研発)はジャパンC翌日の恒例行事。今年は冒頭で驚いた。例年、馬事担当理事が「理事長あいさつ」を代読して発表会は始まるのだが、今年は吉田正義JRA理事長が自ら出席、登壇した。 中央競馬担当になった2010年以降、毎年欠かさず研発に出席している。東大で学んでいた学生時代にも東大弥生講堂が会場だったなどの縁で、研発で勉強させてもらってきたが、理事長の出席を見たことはない。獣医師畑から初の生え抜きで就任した土川健之元理事長が、私が中央競馬担当になる少し前に出席したことがあるようだが、ましてや吉田理事長は文系畑だ。あいさつで「東洋哲学の出身ですが、(発表会とそのための科学的営みが)運営の大きな下支えとなっていると理解している」と述べた。具体的にはトラッキングシステムの応用方法、美浦坂路の改修の成果、暑熱対策について興味を持ったといい、関連する演題を直接聴講した。 「競馬は科学だ」のコラムを書いてきた15年、獣医師畑出身の理事は減り、JRA総研は宇都宮が栃木支所に移管統合で事実上規模縮小されるなど「競馬を支える科学」は、少なからず軽んじられる傾向にあったと感じてきた。理事長の研発出席は、科学的トピックが競馬の健全な発展に重要な役割を果たしていることが理解浸透しつつあることの表れであってほしいと、一科学者として思う。 (若原隆宏)
中日スポーツ