ソニーがデザインしたリアルとバーチャルの融合。ロンドンでも話題となったアート作品が札幌で初披露
ソニークリエイティブセンターはどうしてアートインスタレーションを作るのか
それにしてもメーカーであるソニーのクリエイティブセンターは、どうしてこのような作品作ったのだろう。 石井によれば、ソニーのクリエイティブセンターは、ソニーグループのさまざまな事業を結びつけるクリエイティブハブ的な役割を担い、エレクトロニクス製品のデザインのほか、ビジョンやロゴなどのブランディングやインターフェースを含め、多岐に渡るデザインを通じてブランド価値向上だったり、企業価値向上に貢献していると言う。最近ではオーディオ、ビジュアル、IT機器、ロボティクスといったハードウェアのデザインだけではなく、デザインコンサルティング事業を立ち上げ、他の企業やスタートアップ企業の支援も行なっているという。 そんなソニークリエイティブセンターだが今回の展示には、「人とテクノロジーの新しい関係性の模索」や、それまで同センターがつながりを持っていなかった幅広い層につながるという2つ目的があったようだ。 「今回の展示は人の動きをセンシングして、それをフィードバックし、ジェネラティブな映像だったり音楽だったりといった形で再生するという装置になっています。そう言った人とテクノロジーの関係性というものは、我々がデザインをしていく上で非常に重要なポイントだと思っています。人がテクノロジーに寄り添うのではなく、テクノロジーの側が人に寄り添うのが大事であって、今回もそれを具現化できたかなと思っています。」 石井センター長は、展示をこう振り返りつつこう続けた。「例えばaiboは人の顔、オーナーの顔を認識してフィードバックを行ったり、最近ではモビリティ(自動車分野)においてもドライバーの顔を認識して危険を察知したりなど新しい関係性を築こうとしています。今回の展示も、そう言った人とテクノロジーの関係性の模索の延長線上にあるのかなと思っています。」 そうした模索活動の末にできた作品を多くの一般市民や観光客が訪れる芸術祭、札幌国際芸術祭で展示した意義について聞くと。 「ソニーのテクノロジーで作った我々のクリエイティビティを、普段、我々のことをあまり意識していない人々に届けられるのがいいなと思いました。実際の製品として届けて、それについてのフィードバックをもらうのもいいですが、今回の作品のような形にすることで少し抽象的にはなりますが、我々の考えていることを一人一人に体験として感じてもらうことも大事なのかなと思っています」とのこと。 作品が初披露された2022年のLondon Design Festivalでは、最終的に1万2000人が来場する人気の展示になった同作品。 「最終日は建物の外にまで長い行列ができていて、特に子供たちが喜んでくれているのが私たちも嬉しかったです。」と石井。「親もこの中で子供の写真を撮ると見栄えが良いと喜んで写真を撮っていました。どうしてもソニーの展示となるとテクノロジー好きの人にばかり人気が出てしまうことが多いのですが、幅広い層の人々に喜んでもらえたことが我々にとっても非常に嬉しかったです。」と石井氏。 ちなみに、今回の札幌国際芸術祭への展示が決まったのは、上述したミラノデザインウィークの「Affinity in Autonomy」の会場に「札幌国際芸術祭 2024」のディレクター、小川秀明氏が訪問したことだという。 その後、何度かコラボレーションの誘いを受け、今回の芸術祭に未来を一緒につくるパートナーとして参加。「INTO SIGHT」の国内初展示を行う形で話がまとまった。 札幌国際芸術祭は、3年に1度、札幌市内のさまざまな場所を会場にして賑やかに開催する芸術祭だが、今年はコロナ禍で一度開催が中止になったこともあり、今回は2017年以来、6年半ぶりに初めての冬開催という形で復活した。 テーマディレクターの小川秀明氏は今年の芸術祭のテーマを「LAST SNOW」に定め、札幌市内の6会場に「200年の旅」と「未来の実験区」という2つのストーリーで展開したという。 「200年の旅」は北海道立近代美術館で行われている100年前をテーマにした展覧会と、未来劇場と命名された会場で行われる100年後の未来をテーマにした展覧会、そして札幌文化芸術交流センター SCARTS(スカーツ)で行われている現在をテーマにした展覧会で構成されているが、「INTO SIGHT」はこのSCARTS会場における目玉の展示となっている。 先月から始まった芸術祭は、世界中から多くの人が集まるさっぽろ雪まつりの時期を経て2月25日まで開催されている。この機会にソニーのデザインによる没入体験や世界中から集まった40組以上のアーティストによる注目作品を触れに冬の札幌を訪れてみてはいかがだろう。
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- 【写真】「札幌国際芸術祭 2024」で展示中の「INTO SIGHT」体験の様子。被験者の動きに反応して動き続ける映像が少しずつ色を変えながら無限に広がる映像と音に包み込まれる。
- 【動画】INTO SIGHT体験の様子。何種類かの映像が用意されており切り替わるので、しばらく滞在するか何度か訪れてみるのがお勧めだ。
- 【写真】INTOSIGHT_at_SIAF2024_2.jpg 多くの没入体験は被験者しか楽しむことができないが、「INTO SIGHT」は側面が偏向フィルムを貼ったガラスなので外からも中で体験している様子が見える。
- 【写真】没入感を生み出すのは作品の奥にある正方形に組み上げられた200インチの映画作りの背景にも使われる高精細で明るいCrystal LED。どこまでも広がる無限反射もこのディスプレイの明るさが可能にしている。
- 【写真】外から見るとまるで四角い万華鏡のような「INTO SIGHT」。Sony Creative Centerは、この心地よい没入感を生むプラットフォームをまずは作り、その上で最も心地よい映像の模索を行った。