ソニーがデザインしたリアルとバーチャルの融合。ロンドンでも話題となったアート作品が札幌で初披露
没入体験を支えるソニーのテクノロジー
Crystal LEDとは、ソニーが開発した高輝度と高精細を特徴としたディスプレイ。ユニット型のものをいくつか繋ぎ合わせて大きな1つのディスプレイとして扱うことができる。 「企業のエントランスなどに設置された大型ディスプレイとしてもよく使われますが、最近ではバーチャルプロダクションと言って映画などの撮影で背景を映し出すのにも使われることもあります。照明の向きをちゃんと合わせれば、あたかもそのロケ地に行って撮影したかのような映像を撮るための装置として使われることもあります。また、ソニー・ホンダモビリティではないのですが、自動車メーカーで自らデザインした自動車が、さまざまな空間に置いた時どのように見えるかを検証するのに用いられたりもしています。」(石井)。 現実の風景と見分けがつかないほどにリアルな映像を映し出し、それだけに実写やそれに近い映像を映し出す機会の多いCrystal LEDが、今回の展示では200インチのほぼ正方形のディスプレイとして組み上げられ、かなり抽象的な模様などの投影にも使われているが、これは「美しいだけでなく来場者が心地よく感じられるように、バランスを取って作った映像」(大木)だと言う。 この作品で体験の没入感を強くしているのは映像の大きさ、つまり左右のガラスや上下の鏡で無限に反射を繰り返したことによって映像が視野の外にまで広がっていることだが、この巨大映像の体験が得られるのもCrystal LEDによる部分が大きそうだ。 「Crystal LEDの特徴はドットピッチ(高精細さ)と明るさと色再現性ですが、INTO SIGHTでは偏向フィルム上で無限反射を繰り返す中、どうしても映像が次第に減光してしまうので、元となる映像はパッキリと明るい必要がありCrystal LEDの高輝度である部分が貢献してくれました。 光の万華鏡のような本作品を成り立たせているもう1つの主役が、この偏光フィルムだろう。 多くのテクノロジー企業が作る「没入体験」では、前後左右を全面ディスプレイにしたり、プロジェクターを組み合わせた全方位映像にしたりといったインスタレーションになりがちだが、今回の展示はあえてそうはせずハーフミラーのような半透明の壁を採用している。 「もちろん、我々の中でも全面ディスプレイといった方向での展示も試みたのですが、どうしても画面からくる映像の『圧』が強くて、何か落ち着いた感じにならないと感じました。では、なんでそうなのかというと、やはり周りと隔絶されている空間というのに違和感を感じているからではないかと思いました。半透過のフィルムを使うことで、コンテンツとしての大きな広がりがありつつも、外の状態も同時に見え、なおかつ色も少しずつ変わっていく部分に楽しさみたいなものもある。そういった感じがリアルとバーチャルのブレンドの割合として面白いんじゃないかな、と考えるようになりました。」(大木)。 ちなみに、3M社のファサラガラスフィルムという製品のダイクロイックシリーズというフィルムを採用している。クリエイティブセンターでは、この素材を2019年の「ミラノデザインウィーク」での、人とロボティクスの関係性を探った「Affinity in Autonomy 共生するロボティクス 」という展示でも人とロボティクスの親しみある関係性の象徴として展示のそこかしこで使われた実績がある。
【関連記事】
- 【写真】「札幌国際芸術祭 2024」で展示中の「INTO SIGHT」体験の様子。被験者の動きに反応して動き続ける映像が少しずつ色を変えながら無限に広がる映像と音に包み込まれる。
- 【動画】INTO SIGHT体験の様子。何種類かの映像が用意されており切り替わるので、しばらく滞在するか何度か訪れてみるのがお勧めだ。
- 【写真】INTOSIGHT_at_SIAF2024_2.jpg 多くの没入体験は被験者しか楽しむことができないが、「INTO SIGHT」は側面が偏向フィルムを貼ったガラスなので外からも中で体験している様子が見える。
- 【写真】没入感を生み出すのは作品の奥にある正方形に組み上げられた200インチの映画作りの背景にも使われる高精細で明るいCrystal LED。どこまでも広がる無限反射もこのディスプレイの明るさが可能にしている。
- 【写真】外から見るとまるで四角い万華鏡のような「INTO SIGHT」。Sony Creative Centerは、この心地よい没入感を生むプラットフォームをまずは作り、その上で最も心地よい映像の模索を行った。