「肉体が滅んでも意識は残り続ける?」 そんなSFのような世界がそこまで来ている!?
また、頭蓋を開けたまま電極をつなぐことは、細菌による感染リスクを高めますが、無線化した電極を皮下に埋め込み皮膚を完全にふさぐ「無線皮下封印」の技術も、脳疾患の治療ですでに実用化され、パーキンソン病の治療などでは保険適用ともなっています。 BMIによる機械脳との接続も、現時点での神経科学の倫理基準で実現可能です。BMIの研究は副産物としてさまざまな症状や障害の克服をもたらすでしょうし、それらの成果がBMIの実証データになっていくと考えています。 ――最終章では「ハードウエア面の開発は10年ぐらいで達成可能」とあり、そんなにも早く実現するのかと驚きました。 渡辺 アメリカや中国に負けないくらいに金銭的なバックアップがあれば、ですが。ただし「人間の意識のアップロード」には、さらにあと10年ほどはかかると思います。 私自身は機械に意識が宿ることを確信していますが、理論を実証するためには膨大な試行錯誤が必要であることは、かれこれ30年も神経科学の現場に身を置いていて痛感していることでもありますから。 ――それにしても、体を失って意識だけで生き続けることは、人間にとって本当に幸福なのでしょうか? 渡辺 それについてはさまざまな価値観があるでしょうし、「意識の死」も選択肢として保証されるべきでしょう。本の中では、自由に出入りできる複数の仮想世界を作って、最もしっくりきた世界をついのすみかにすることを提案しています。 もちろんどの仮想世界も、「現世」で得た富や名誉の多寡が反映されない、誰にでも公平な社会でなければならないと考えています。 ●渡辺正峰(わたなべ・まさたか)1970年生まれ、千葉県出身。東京大学大学院工学系研究科准教授。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。専門は神経科学。著書に『From Biological to Artificial Consciousness』(Springer)、『脳の意識 機械の意識』(中公新書)、共著に『理工学系からの脳科学入門』(東京大学出版会)などがある ■『意識の脳科学「デジタル不老不死」の扉を開く』講談社現代新書 1320円(税込)人は死や、死によって訪れる意識の断絶への恐怖をどう克服できるのか? スーパーコンピューターに意識をアップロードすることで肉体が死を迎えても私たちは生き続けると神経科学者の著者は語る。しかしこれまで考えられてきた手法では危険が伴う。研究の末、著者はとうとう死を介さない意識のアップロードの秘策を考案する。意識はどのように生まれるのか? 不老不死は実現可能か? 生命科学最大の謎を解かんとする刺激的な一冊 取材・文/柳瀬 徹 撮影/幸田 森