「肉体が滅んでも意識は残り続ける?」 そんなSFのような世界がそこまで来ている!?
――脳内の意識を機械にアップロードすることで、「死」を回避できるとお考えなのですね。 渡辺 そうです。ただし、アップロードのためにいったん脳機能を停止して、機械に移してから再起動する、これまで提案されてきた手法では、死にたくないと思っている当の本人は、間違いなく死んでしまうので、それも回避したいと考えています。 私が提案しているのは、左右の脳半球を分離し、それぞれを「ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)」を用いて機械半球と接続する方法です。BMIによって接続された2組の生体脳半球+機械半球ペアの意識を統合し、記憶の転送を行なうことで、ひとつの意識をもつ2組のハイブリッド脳が出来上がります。 やがて来る肉体の死によりふたつの生体脳半球が活動を終えると、生体と機械にまたがっていた意識は機械半球に移行します。そこで生体脳半球を切り離し、機械半球同士を接合すれば、ひとつの意識をもつひとつの機械脳が完成します。こうして死を介することなく、生体脳から機械脳へと意識の移管が完了します。 ――生体脳半球から機械半球への移行は自然と起こるのでしょうか? 意識の半分が失われることにはならないのでしょうか。 渡辺 脳卒中などで片側の脳半球を喪失すると、両半球にまたがっていた意識が片半球に移行することがわかっています。片半球の喪失は半身まひや片視野の喪失などの重篤な後遺症をもたらしますが、この場合は機械半球が生体脳半球の機能を肩代わりしますので、理論上は何も失うことなくひとつの意識へと統合されます。 ――BMIは頭皮に電極パッドをつけるといった間接的な方法ではなく、頭蓋を開けて物理的に接続するのでしょうか? 渡辺 脳内の情報処理を担っているのは「ニューロン」と呼ばれる1000億個の神経細胞で、脳の1㎜角には5万個ほどのニューロンたちがひしめき合い、ひっきりなしに情報のやりとりを行なっています。 残念ながら分厚い頭蓋骨越しにニューロンの活動すべてをアップロードするのは不可能で、なんらかの方法で頭蓋に穴を開けて接続する「侵襲」が必要です。 ――脳に機械を直につなぐことはタブーではないのですか? 渡辺 脳侵襲技術の医療応用を巡っては、アメリカと中国のベンチャー企業がしのぎを削っていて、最も有名なのはイーロン・マスクが2016年に立ち上げたニューラリンク社です。 同社がまず開発ターゲットにしているのは、脳からの信号で駆動するロボット義肢で、脊髄損傷で手足が動かなくなった患者に提供することを目指しています。