現代の子が抱える「はずせない」という不安。精神科医が語る、子どもの話を聞くときに「いいアドバイスをする」より大切なこと
子どもの成長とともに、子育ての悩みは少しずつ変わっていきます。「子どもの悩みが見えにくい」ことに悩む時期もやってくるかもしれません。 【画像4枚】マンガ『群青のカルテ』の一場面を見る!医療監修を担当する尾林誉史先生のインタビューカットも 椎名チカさんの最新コミック『群青のカルテ』(小学館)は、精神科医の女性が主人公。医師として人の悩みに寄り添う日々を送る反面、高校生の娘が抱えていた深刻な悩みに気づけなかった事実に直面します。 今回は『群青のカルテ』の医療監修を担当されている尾林誉史先生にインタビューを実施。 現代の若者を取り巻く空気や親子関係について話をうかがいました。
若年層の「はずせない」「失敗できない」不安の背景
―『群青のカルテ』の1巻では、主人公の娘(高校生)が親に言えない生きづらさを感じていたのではないか、という疑いが浮上します。世代でくくるのは難しいと思いますが、子育て中の世代の若い頃と、現在の若年層には、どんな違いがあると思いますか? 尾林先生:僕は、精神科医として青年期以降(高校生、大学生、新卒社員)の悩みを聞くことがあります。 どの時代においても、若年層は上の世代から“今の若者は……”と言われるものかもしれませんが、今の10代後半~20代前半の子たちは「はずせない」「うまくやらなければならない」という感覚が一昔前よりもより強くなっているように感じます。 調べれば実社会の“真実みたいなもの”は簡単に手に入りますし、学校や塾の問いにはたいてい答えがある。それでなんだかわかったような“つもり”になれてしまうんです。 でも、いざ実社会に出ると、人間関係や仕事内容の“あいまいさ”はどんどん増して、明確な答えのないことばかりです。 情報収集能力や問題を解く自信があっても、問いの立て方がわからない。答えにたどりつかない。 本来は間違ったり、はずしたりしながら経験値を増やしていくものですが、「はずせない」という思いが先立ち、現実に幻滅してしまう子もいます。 ―目標を「はずさない」ことについて、早い段階で子どもに意識させる風潮もあります。 尾林:社会では、目標をたてたら、そこに向けて“うまくいく”“成功する”“達成する”ために、がんばることが求められます。一方、世の中にうまくいく確率を高める近道やノウハウがあふれてくると「はずせない」という強迫観念はより大きくなっていくことは否めません。